「妊娠した従業員の態度にほかの従業員が疲弊している…」
「逆マタハラというものがあるらしいけど、マタハラと何が違うの?」
マタハラは有名ですが、逆マタハラというものがあるのはご存じでしょうか?
逆マタハラとは、妊娠した従業員の態度や業務量の軽減で他の従業員に理不尽な取り扱いが生じてしまうことをいいます。
そこで、当コラムでは逆マタハラの具体例と対策について最新情報を解説します。
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目次
逆マタハラとはどういう意味?
逆マタハラとは妊娠や出産をした女性が、その立場を利用して周囲の人に対して行う迷惑行為のことです。
一般的なマタハラは妊娠中や出産前後の女性に対して行われるハラスメントです。
一方で逆マタハラは加害者が妊娠中や出産前後の女性となるのがポイントです。
- 妊娠している私を気遣って当然
- 妊娠や子育て中なら仕事ができなくても良い
- 独身女性は妊娠中の女性の代わりにたくさん働くべき
このような考えに基づいた行動が逆マタハラに繋がります。
妊娠や出産前後で大変な思いをする女性に対しての思いやりは欠かせません。
しかし、妊娠中の女性自身が過度に主張しすぎて職場の雰囲気を壊すのは逆マタハラといえるでしょう。
妊婦や子育て中の女性に悪気がないケースも多く、周囲が疲弊しても気づいていない可能性があります。どのライフステージでも従業員同士思いやりを持って働ける環境づくりが必要です。
逆マタハラが起こる原因とは?
逆マタハラが起こる原因5つについて解説します。
- 企業のマネジメント不足
- 忍耐を美徳と捉える国民性
- 女性の社会進出を促進する風潮
- 感謝の気持ちが少ない妊婦
- 妊娠や出産をしない女性が増えている背景
逆マタハラはさまざまな状況が複雑に絡まり合うことで、起こる可能性が高いハラスメントです。
企業のマネジメント不足
企業のマネジメント不足が起こると、従業員の業務量の調整がうまくできずに逆マタハラが起こる可能性があります。
産前産後休業や育児休業をとる従業員がいても、妊娠を理由に辞めさせたり非正規職員にはできません。そこでマネジメントができていないと妊婦や子育て中の従業員が休んでいる間に、他の従業員に仕事が回ってきます。
企業のマネジメント不足で独身や子どもがいない従業員に皺寄せが来てしまうと、逆マタハラといわれる可能性があるでしょう。
忍耐を美徳と捉える国民性
日本人の国民性として「我慢するのが美徳」と考える傾向があります。
我慢すればいいと感じると、逆マタハラを受けていてもハラスメントと捉えずに相談しない原因になります。
- 妊婦に無理させてはいけないから自分が我慢すれば良い
- みんな大変で自分だけじゃないから頑張ろう
逆マタハラを受けていても相談せずに抱え込む人が多いのが逆マタハラの特徴です。
女性の社会進出を促進する風潮
共働きが当たり前になり、働く女性や女性の活躍を推進する社会情勢も逆マタハラの原因となっています。
男女共同参画社会の実現のために、女性が妊娠や子育てで社会から隔離されないような取り組みが進められています。
参考:男女共同参画局『男女共同参画社会って何だろう?』
妊娠や出産を理由として女性に不利益な取り扱いをしないように社会が動いているといえるでしょう。
妊婦に対しての適切な配慮を通り越し、周囲に理不尽と感じさせてしまうと逆マタハラに当たる可能性があります。
感謝の気持ちが少ない妊娠中の女性従業員
逆マタハラの加害者である女性従業員の態度も逆マタハラの原因になります。
妊娠中に妊娠前のようなパフォーマンスができない女性従業員は多く、周囲のサポートは必須です。サポートを受けているなら、社会人として当然感謝の気持ちを表さなければなりません。
そしてできる限りの仕事は責任持って遂行し、周囲に迷惑をかけないような心がけが必要です。
しかしその周囲のサポートや厚意に対して感謝できずに横柄な態度をとるケースが逆マタハラになります。
「妊婦なんだから気遣ってもらって当たり前」という雰囲気を周囲に感じさせてしまうと逆マタハラとなるでしょう。
妊娠や出産をしない女性が増えている背景
少子高齢化が深刻になっている背景も逆マタハラを加速させます。
令和4年度『少子化の状況及び少子化への対処施策の概況』では令和2年(2020年)の出生数は過去最低を記録しています。
妊娠や出産を望まない女性が増えていることにより、以下の逆マタハラの要因が生まれます。
- お互い様ではなくなる
- 妊娠や出産をする従業員が社会貢献している雰囲気になる
- 独身者と妊婦の価値観の違いが埋まらない
妊娠や出産をほぼ全ての従業員が経験すると、妊娠しながら働くことが一般的になります。
将来妊娠するかもしれないため、同僚妊婦のためのサポートも自分ごととして受け入れる気持ちになりやすいでしょう。
しかし、生涯妊娠をしないつもりであれば妊婦のサポートにまわる従業員は不満を抱えやすくなります。
また、少子高齢化が進むにつれて、妊娠中の女性が「子どもを産むのは社会貢献」と考えてしまう可能性もあります。子どもを産む産まないにかかわらず、マナーと思いやりを持って職場全体の風通しをよくする必要があります。
逆マタハラとなる発言や行為の具体例10選
具体的に逆マタハラに当たる可能性のある言動を解説します。
一部ではありますが、以下を読んで逆マタハラを防ぐように日々意識しましょう。
発言に対する具体例
まず発言に対する逆マタハラ発言の具体例です。
- 独身だから残業できるでしょ
- 子どもいないなら仕事優先できるよね
- 私は妊娠中だから楽な仕事で当然でしょ
- 独身だからシフトはいつでも入れるでしょ
- まだ子ども産まないの?子どもいると楽しいよ
- 子どもいないと仕事だけしてればいいから羨ましい
このように、独身者や妊娠していない従業員だけが「仕事を頑張れば良い」という雰囲気にならないようにしましょう。
妊婦や子育て中でも給料をもらって仕事をしている限り、責任を持って働く必要があります。
体調や家庭環境に個人差はあっても、お互いの負担を減らすように気遣いやサポートしあいましょう。
行動に対する具体例
発言のみならず行動やマネジメントの面で逆マタハラになるケースを紹介します。
- 独身や子どもがいない人に残業を強いる
- 子どもがいる人だけ土日出勤を免除される
- イベント企画の際に妊婦や子育て中の従業員の予定だけ考慮される
- 育児短時間勤務者が終わらなかった仕事を他の従業員に押し付ける
独身や子どもがいない従業員には「いつでも仕事を頼める」という風潮になると逆マタハラだと感じる人が多くなります。
とくに時間外の仕事や夜勤、土日祝日の勤務での配置は問題になりやすいでしょう。
雇用形態や給与形態が同場合の従業員で逆マタハラは起きやすく、家族構成やライフステージの差でシフトや業務量が変わるのは不満が生まれて当然です。
逆マタハラの事例を紹介!裁判になったケースはある?
実際に逆マタハラが問題になったケースを紹介します。
『資生堂ショック』と呼ばれる事件が2014年に起こりました。
育児短時間勤務中の従業員に対して17時以降も働くように変更したのがきっかけです。
当時、育児中の従業員が多く17時以降は独身従業員のみが勤務していることが多かった背景がありました。
しかし17時以降は会社帰りのお客様が多い時間帯なのでとても混み合い、業務負担が多すぎると問題になったのです。
そして資生堂は育児短時間勤務の従業員の働き方を見直しました。
このニュースは賛否両論を巻き起こし、社会の逆マタハラ問題を可視化したのです。資生堂ショックはマネージャーと従業員が面談をして、子育て中でも可能な範囲で17時以降や土日出勤を命じました。
マネージャーとのコミュニケーションで裁判は防げましたが、30名ほどの従業員は資生堂ショックをきっかけに退職しました。
逆マタハラに疲れた…独身者がつらいと訴えるしわ寄せの問題点とは
逆マタハラが起こると独身者を中心に「疲れた」「辛い」と感じるケースが多くなります。
とくに問題になるケースは以下の5つです。
- 従業員のキャパオーバーが継続する
- 従業員同士の風通しが悪くなる
- 自分の将来を悲観する
- 有給をとりにくくなる
- 人事考課が適切ではない
逆マタハラはマタハラよりも訴える人が少ないため、表面上は何もないように見えるかもしれません。
しかし逆マタハラによる生産性の低下や、従業員の働きやすさは徐々に蓄積されてしまいます。
従業員のキャパオーバーが継続する
妊娠や子育てを理由に業務量を軽減する、勤務時間を短くする、という従業員は少なくありません。
そこで減らした仕事量や勤務時間の分の業務は、その他の従業員が引き受けることになるでしょう。
そもそも人員に余裕がない職場も多く、代わりに働く従業員が疲弊する可能性が高まります。産休や育休中の女性の代わりに人を雇うことも難しい現状があります。
「自分のポジションを奪われた」と感じてマタハラと訴えられる可能性があり、人事も慎重になるからです。逆マタハラが起こると慢性的な業務量の増加により従業員のキャパオーバーが継続してしまいます。
マタハラについての詳しい定義や原因はこちらをご参照ください。
関連コラム:マタハラの定義や原因とは?防止対策は法律上企業の義務です!
従業員同士の風通しが悪くなる
逆マタハラ加害者に対して意見をしたくても「妊娠中だからいうのをやめよう」と控えてしまうケースがあります。
とくに妊娠中や子育て中の従業員はホルモンバランスの変化や、家庭内の事情から精神的に不安定になりやすいかもしれません。
そのような従業員に対して、コミュニケーションを控える場面も増えるでしょう。
従業員同士の風通しが悪くなると、仕事の生産性が下がりミスが増えるなど深刻な問題に直結します。
自分の将来を悲観する
逆マタハラを受けた独身従業員は、将来の希望が持てなくなる可能性があります。
いつか自分も子どもを産みたいけれど、他の人に迷惑がかかると心配になるからです。そして産むなら会社を辞めなければと思ってしまう可能性もあります。
さらには、将来の妊娠や子育てのために転職を考える従業員も出てくるでしょう。逆マタハラは貴重な人材を失う原因にもなります。
有給をとりにくくなる
妊娠中や子育て中の従業員は、体調や家族の都合で休む可能性が高いといえます。
もちろん自身の健康や家族の都合で休むこと事態は問題ではありません。
問題なのは、独身従業員や子どもがいない従業員にも同じように休みが与えられない可能性です。
特徴的なXのポストを引用します。
【休み希望】について同日に2人しか休めません。3人休み希望があり1人は出勤となった時に…
引用元:X
A→子どもの行事です
B→子どもの大会があります
C→モンハン発売日です
となった時にCが休みを諦めるのが当然でしょ?という雰囲気は好きじゃない。子どもの行事があって~とか自信満々に言うなとは思う
子どもの予定で休む従業員を優先するような風潮になってしまうと、独身者など他の従業員は働きにくくなるでしょう。
人事考課が適切ではない
逆マタハラにより独身者などの業務量や業務時間が長くなっても適切に評価されないのは問題となります。
妊娠などにより業務量を軽減する必要が認められれば、事業主は妊婦の勤務を調整しなければなりません。円滑な業務遂行のために他の従業員に妊婦の仕事を代わりの仕事を命じたら、適切に評価しましょう。
業務量が増えたにも関わらず、フォロー体制や適切な評価がなければ、逆マタハラ被害者は疲弊する一方です。
逆マタハラ防止の為に企業がすべき対策とは
では逆マタハラの具体的な予防策をお伝えします。
以下の5つを行いましょう。
- 基本的なハラスメント対策の徹底
- 逆マタハラというものがあることを周知する
- 誰もが相談しやすい職場づくり
- 適切な人事考課やフォロー体制の強化
- 逆マタハラを行う従業員に対しての適切な指導
これらを順番に実施していくと、逆マタハラ対策が可能です。
基本的なハラスメント対策の徹底
逆マタハラの対策には、まず基本的なハラスメント対策を徹底する必要があります。
- ハラスメントの基礎講習
- ハラスメント相談窓口の活用
- ハラスメントが起きにくい職場づくり
ハラスメントの種類は数多くあっても、予防策は似ている部分が非常に多いです。
最初は基本的なハラスメント対策を進めましょう。
逆マタハラというものがあることを周知する
逆マタハラの認知度はまだまだ低い傾向があります。
マタハラは一般に浸透していますが逆マタハラについては「何それ」という方も多いのではないでしょうか。
そこで、逆マタハラというハラスメントが存在することを従業員に周知しましょう。
ここで注意したい点は、実際に逆マタハラが起きている場合は逆マタハラの加害者を刺激しかねない点です。逆マタハラだけでなく、他のハラスメントとセットで周知するなどの工夫が必要になります。
誰もが相談しやすい環境づくり
逆マタハラで悩んでいる従業員は、誰かに相談しにくいと感じるケースがあります。妊婦に対して優しく接しなければならないなどと感じて、1人で我慢しているかもしれません。
風通しのよい職場作りを行い、悩んでいる従業員が相談しやすい雰囲気を作りましょう。
逆マタハラは被害者がハラスメントだと感じていない場合もあります。ハラスメント相談窓口以外にも、話しやすい同僚や上司が話を聞ける体制づくりが大切です。
適切な人事考課やフォロー体制の強化
妊婦や子育て中の従業員の代わりに仕事を引き受けた人が、適切な評価や代休などを取れる仕組みづくりをしましょう。
仕事量が増えているのに評価が変わらなければ、従業員は疲弊する一方です。
妊婦に対しての給料やボーナスの引き下げはマタハラになる可能性もあるため、フォローしている従業員にプラス評価を与えるように検討しましょう。
逆マタハラを行う従業員に対しての適切な指導
逆マタハラ加害者への注意も必要です。
マタハラを恐れるあまり、逆マタハラへの対処を怠らないように気をつけましょう。放置すると他の従業員の生産性の低下、ひどい場合は離職につながります。
指導方法としては以下の点を抑えると穏便に済む可能性が高まります。
- 妊娠中の体を気遣って妊婦の意見を聞く
- 妊娠中でも社会人としての最低限のマナーは必要であると伝える
- できない部分はカバーするが、できる範囲は頑張って欲しいことを伝える
- 感謝の気持ちをお互いに持ちながら働きたいことを伝える
一方的に責めるのではなく、話を聞きながら原因や解決策を模索するのが大切です。
逆マタハラは誰に相談すればいい?相談窓口を紹介
組織内で逆マタハラが起こり、改善方法がわからない場合は外部の相談窓口を活用しましょう。
主な相談先としては以下の3つがあります。
- 厚生労働省雇用環境・均等部(室)
- TECC東京圏雇用労働相談センター
- マタハラNet相談窓口
自社で解決が難しい場合は早めに相談すると、従業員の健康や生産性の維持が可能となるでしょう。
厚生労働省 雇用環境・均等部(室)
厚労省の雇用環境・均等部(室)にて逆マタハラの相談が可能です。
以下の流れで紛争の解決に向けて相談が進みます。
引用:厚生労働省『令和4 年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での男女雇用機会均等法、 労働施策総合推進法、パートタイム・有期雇用労働法及び育児・介護休業法に 関する相談、是正指導、紛争解決の援助の状況について』
雇用環境・均等部(室)は公的機関のため、法令違反の是正などの指導が可能です。
都道府県ごとに連絡先が異なりますので、以下のページから事業所の所在地に該当する部署へご連絡ください。
都道府県ごとの雇用環境・均等部(室)一覧はこちらをご参照ください。
TECC 東京圏雇用労働相談センター
TECC東京圏雇用労働相談センターでは、弁護士や社会保険労務士に無料で相談が可能です。
ベンチャー企業などの労務管理をするための期間としてTECC東京圏雇用労働相談センターがあります。
内閣府の国家戦略特別区域会議のもとに設置されており、安心して相談できます。
マタハラNet 相談窓口
マタハラNetはNPO法人が運営する組織です。
LINEのオープンチャットを利用して匿名で相談できるため、相談へのハードルが低いのが特徴です。
マタハラ被害にあった女性が中心メンバーとなっており、相談すると当事者ならではの共感を得られるでしょう。
逆マタハラについてもマタハラの一環として相談できます。
逆マタハラまとめ
当コラムでは、具体的は逆マタハラについての詳細と相談機関ついて解説しました。逆マタハラでは、妊婦の周囲の従業員が疲弊してしまいます。
長期化すると離職や生産性の低下など企業としても大きなダメージを負う可能性があります。
逆マタハラの予防には適切なハラスメント対策と当事者への注意が必要です。
まずはハラスメント研修など自社にとって適切な指導をしましょう。
アガルートのハラスメント研修なら以下のポイントで企業様の負担を軽減します。
- 自社に合わせたカスタマイズ
- 実務ですぐ使える内容
- オンラインで完結
逆マタハラ以外にも、パワハラやセクハラなどの対策が可能です。
まずはお気軽にご相談ください。
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