司法書士試験の勉強を始めるにあたり、用意しなければならない教材は何でしょうか。

まず「教科書(テキスト)」が必要なことは分かると思いますが、その次に挙がるのが「過去問」です。

今回は、司法書士試験における過去問の位置づけや「過去問集」の使い方などについて、お話していきます。

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司法書士試験の過去問は無料で公開されている

過去の司法書士試験の問題は、法務省のWebサイトにて無料で公開されています。

過去5年分は、下記のページにあります。

令和5年度(2023年度)はこちら▶
令和4年度(2022年度)はこちら▶
令和3年度(2021年度)はこちら▶
令和2年度(2020年度)はこちら▶
平成31年度(2019年度)はこちら▶
平成30年度(2018年度)はこちら▶

ただし、上記は過去の試験問題のみを掲載しており、解答や解説はありません。

過去問の対策する場合は、過去問集を買うか、予備校・通信講座で過去問対策をする必要があるでしょう。

おすすめ過去問題集はこちら▶

司法書士の試験は過去問だけでも合格できる?

結論から言うと、司法書士試験は過去問だけで合格することはできません。

まず司法書士試験の勉強における過去問の位置づけですが、「必須の教材」とされています。

司法書士試験の合格を目指すにあたっては、過去問には必ず当たらなければならないとされています。

どんなことが、どんな形で、実際の試験では出題されているのか。

勉強の方針を決める際や、各項目を勉強する際にどのくらいの時間をかけるべきなのか等を決めるにあたり、これらの情報は必ず必要になります。

そして、これらの情報は、過去問に当たらなければ分かるはずがありません。

したがって、司法書士試験の勉強においては、過去問は必須の教材と位置付けられているのです。

このような話をすると、受験生の皆さんから必ずと言っていいほど「司法書士試験は、過去問だけでも合格できますか?」

とご質問をいただきます。

ここでいう「過去問だけ」というのは、司法書士試験の過去問で出題された内容だけを覚えればよいか?という意味であると思われます。

司法書士試験は全部で11科目もありますので、過去問の検討だけでも相当時間がかかってしまいますから、そのように聞きたくなる気持ちも分かります。

また、書店などに並ぶ過去問集を手に取ってみると、とんでもない厚さです。

「これをやるのか…。」と想像したら、「せめて『これ(過去問集)』だけであってくれ!」と考える気持ちも想像できてしまいます。

ただ、残念なことではありますが、司法書士試験は過去問だけで合格することはできません。

「司法書士試験の過去問で出題された内容だけを覚えた」と仮定して、最新の司法書士試験の問題を解こうとすると、全体の60%程度しか正解することができないという検証結果も指摘されています。

司法書士試験の択一式に設定される基準点は、例年全体の70~80%とされますので、これではとても合格することはできません…。

基準点をクリアするには、過去問だけでは不十分で、足りないところも含めテキストでカバーする必要があります。

司法書士試験の場合、「テキスト」「過去問集」が1セットとされるのですが、これは上記のような事情があるからなんですね。

司法書士の過去問は何年分解けばいい?

「司法書士試験の過去問だけで合格することが難しいことは分かりました。

では、検討する過去問の数をなるべく減らすことはできませんか。せめて直近10年分くらいに…。」

おそらく次に皆さんが考えることは、上記のようなことだと思います。

過去問だけで合格することが難しいのなら、検討する量を減らすことはできないか?という疑問です。

これも、厳しい話になってしまいますが、検討する量を減らすのも難しいです。

書店に並ぶ過去問集を手に取って見てみると、ボリュームの多いものは「昭和57年度のもの」から取り扱っているものもあります(令和元年度までで計算すると、実に「過去38年分」です)。

検討の対象となる過去問を「平成30年分」→「直近20年分」→「直近10年分」とドンドン少なくしていくと、当然過去問で網羅できる知識の量も減ります。

そのため、それに伴い解ける問題の数も徐々に減っていくこととなります。

先ほど「『司法書士試験の過去問で出題された内容だけを覚えた』と仮定して、最新の司法書士試験の問題を解こうとすると、全体の60%程度しか正解することができない」というお話をしましたが、ここでいう「全体の60%程度」がますます減ってしまうことになるわけです。

したがって、検討する過去問の数は、なるべく減らすべきではないという結論になります。

「過去30年分」程度が、望ましい過去問の数になります。

司法書士試験に合格するための過去問勉強法

ここまでの話を整理すると、

①司法書士試験は、「過去問だけ」で合格することは難しい。テキストとセットで勉強を進めなければならない

②検討する過去問は、なるべく減らさないようにしなければならない。過去30年分は欲しい

の2点にまとまります。

とはいえ、全11科目もある司法書士試験では、上記①②をそのまま実行しようとすると、その量に押しつぶされてしまう可能性がとても高いです。

そこで、司法書士試験の勉強に過去問を用いるにあたっては、次のようなやり方をご紹介したいと思います。

  1. まずは「直近10年分」からスタートしよう
  2. 「直近10年分」に10年分を追加しよう
  3. さらに10年分を追加使用

1.まずは「直近10年分」からスタートしよう

過去30年分は欲しいとは言っても、最初から30年分の検討を行うと、いつまで経っても前に進むことができません。

勉強の初期の段階で意識していただきたいことは、「まずはとにかく最後までやり切ること」です。

最終的に「過去30年分を検討し終えた」状態にすればよいのですから、いきなり過去30年分をやる必要はありません。

まずは「直近10年分」(最新年度から数えて10年分)からスタートさせましょう。

「直近10年分」の過去問の検討を行う際に重要なポイントは、次の2点です。

  • どのようなことが問われているのか(問われる知識の確認)
  • どのような形式(例:事例式か、抽象的な問いか)で問われているのか(出題形式の確認)

「直近10年分」の場合、比較的新しい過去問になりますので、ここで見かける知識や出題形式は、これから受験する年の試験の問題に近いと言えます。

特に出題形式に慣れるためにも、問われる知識の確認をするだけでなく、出題形式も含め、じっくりと検討してみましょう。

2.「直近10年分」に10年分を追加しよう(「直近20年分」にして検討をしよう)

「直近10年分」の検討が一通り済んだら、過去問による網羅性を高めるために、さらに10年分加えて検討します。

合計20年分となり、量はグッと増えることになりますが、やることは単純に10年分増えるわけではありません。

なぜかというと、「直近10年分」と「追加した10年分」では、重複する話が出てくるからです。

「あ、これ『直近10年分』でもう終わっていることだ」という問題・選択肢が多くなってくるということですね。

すると、既に勉強が終わったものですので、1.の頃とは違い、割とあっさりと終わってしまいます。

また出題形式の確認も1.の段階で終わっていますから、目新しい出題形式もそれほど出てこないはずです。

つまり、2.の段階に入ると、1.の段階の頃と比べ過去問の検討に要する時間が少なくなります。

過去問の検討作業自体に慣れたり、直近10年分を先に済ませたりすることで、「過去30年分」の過去問の検討作業全体に費やす時間を“圧縮”することが可能なわけです。

3.さらに10年分を追加使用(「過去30年分」の検討を行っていく)

合計20年分の検討が一通り終わったら、さらに10年分を追加しましょう。

これで目標としていた「過去30年分」の過去問の検討を行えるようになりました。

もっとも、上記2.のときと同様、新たに追加した10年分も、これまで勉強してきた20年分と重複する話が出てきたり、既に確認し終えた出題形式が出てきたりするので、目新しいものもさらに少なくなってくるはずです。

しかも、今回新たに追加した10年分(古いほうから数えて10年分)というのは、直近のものと比べると、「問題文が極端に短い」「テキストに掲載されているものがそのまま出題されている(=ひねりがない)」といった特徴を持つものが多く、上記①②に比べて、さらに検討のための時間は少なくなるでしょう。

これでさらに費やす時間の“圧縮”に成功しました。

以上が「司法書士試験に合格するための過去問勉強法」でした。

単純に「30年分を、前から順番にやる」のではなく、司法書士試験の出題傾向やその変化を踏まえて一工夫加えるだけで、少ない時間で、より高い学習効果を期待することができます。

特に勉強時間を費やすことが難しい社会人受験生の方は、大いに参考にしていただければ幸いです。

過去問を使った勉強の注意点

「司法書士試験に合格するための過去問勉強法」の話をここまでお読みになった方は、今から書店へ走って行って過去問集を購入し、今日にでも早速始めよう!なんてお考えの方も多いと思いますが、ちょっと待ってください!

過去問を用いた勉強には、いくつかの注意点があります。

最後にそれをお伝えしてこの話を終えたいと思います。

過去問の検討は、1回では終わらない

過去問の検討は、1回やっただけでは終わりません。

最初のうちは、解けるものよりも、解けないもののほうが多いです。

「解ける」「解けない」以前に、そもそも「これは何が問いたいんだ?」と問題文の意図すらわからないということもあるでしょう。

そのため、過去問の検討は1回(1周)では終わりません。

何度か繰り返す必要があります。

かといって、やみくもに回数をこなしたところで、やはり効果は薄いです。

そこで、次のようなやり方を行ってみてください。ひとまず3回(3周)検討してみる(問題を解いてみる)

3周検討した後、「3周とも正解した問題」を検討の対象から外す(なので、毎回問題を解く度に、正誤の記録は残しておきましょう)

「3周とも正解した問題」を検討の対象から外したら、残った問題を再び3周解いてみる

2度目の3周が終わったら、「2度目の3周で、3周とも正解した問題」を検討の対象から外す

「3周とも正解した問題」を検討の対象から外したら、残った問題を3度目の3周に入る……(以下、これを「全体の10%」の量になるまで行う)

ある程度繰り返すうちに徐々にできるものが増えてきますので、できるものにかける時間を、すべて「できないものをできるようになる」ための時間として使うわけです。

「不動産登記法」「商業登記法」は、記述式の過去問もあることを忘れずに

司法書士試験の出題科目全11科目のうち、「不動産登記法」「商業登記法」には記述式もあります。

これら2科目については、択一式だけでなく記述式も検討する必要があります。

受験者の中には、記述式は択一式と異なり、同じ問題が出題されることがないため、記述式過去問を解く必要がないと考える方もいらっしゃいます。

確かに、記述式問題においては、一度出題された問題が再度出題されることはありません。

しかし、同じ論点が繰り返し出題されることはあります。

また、本試験の記述式問題には独特の雰囲気があり、実際に問題を解くことでしかその雰囲気を掴むことはできません。

したがって、記述式問題についても過去問の検討は必須であるといえます。

もっとも、早い段階から記述式の過去問を検討の対象に入れてしまうと、貴重な問題(1年に1問ずつしか出題されない)を知識が中途半端な段階で用いることになり、効果が薄れてしまいます。

記述式の検討については、上記「司法書士試験に合格するための過去問勉強法」のうち、②の段階が終わるタイミングで記述式の過去問も検討の対象に含めるとよいでしょう。

この段階であれば、「不動産登記法」「商業登記法」の知識がかなり習得できているでしょうから、記述式の過去問を解くにあたっても全く分からないといったことはないと思われるからです。

また択一式そのものにだいぶ慣れたこの段階で記述式の過去問を検討することで、「同じ知識でも、『択一式』と『記述式』では、出題されたときの印象やその知識が問われていることに気が付くことの難しさ等出題形式ごとの違い」を、しっかりと意識し、習得できるようになるからです。

テキストで調べたときには、過去問の解説箇所にメモしておこう

最初に述べたとおり、司法書士試験の勉強には、テキストと過去問集の両方が必要です。

それは、司法書士試験の過去問だけでは網羅しきれない出題範囲をテキストでカバーしたり、過去問で問われた知識を理解するためのツールとしてテキストを用いたりする必要があるからです。

このように、過去問の検討を行う際には、テキストが必ず顔を出してきます。

テキストと過去問集は1セットなのです。

もっとも、どんなときでも、テキストと過去問集を持ち歩くわけにもいきません。

社会人受験生の方であれば、通勤時間などを使って勉強することになるでしょうから、テキストと過去問集を広げて勉強する……というのも、なかなかハードルが高いと思います。

そこで、なるべく片方の教材で済ませられるように“加工”を行います。

具体的には、過去問集には、テキストで調べたことを、解説の余白の部分にメモして残しておいたり、テキストをコピーして貼り付ける・挟みこんでおく等しておきます。

またテキストのほうには、解説文の近くに「出題年度・問題番号」をメモしておいたり、過去問集の該当の問題・選択肢をメモしておいたりコピーして貼り付けておく等しておきます。

こうやって、テキストには「過去問集のなかから必要な情報をピックアップして記録しておく」をし、過去問集には「テキストのなかから必要な情報をピックアップして記録しておく」をしておくことで、テキスト・過去問集の両方が必要となるシチュエーションをなるべく減らすわけです。

すると、持ち歩く教材の数を減らすことができ、勉強できる場所が増え、空き時間のさらなる有効活用による勉強時間の増加が期待できます。

以上が、「過去問を使った勉強の注意点」になります。

なお、他に過去問のうち記述式特有の事情等があるのですが、その解説は「記述過去問解析講座」や「記述解答力完成講座」に譲りたいと思います。

また、司法書士試験の勉強経験がある方(学習経験者)については、一通り勉強した方特有の事情等があるのですが、この解説についても学習経験者の方向けの「演習総合講義/演習総合カリキュラム」に譲りたいと思います。

過去問を使った勉強法にお悩みの方に、少しでも参考になれば幸いです。

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