司法書士は、独立開業する人と雇用されて勤務する人がいます。

独立開業というとハードルが高そうに聞こえるかもしれませんが、司法書士はもともと独立志向の人が多く、実際に独立して成功している人が多い職業です。独立することによるメリットも様々で、独立前提で資格を取る人も多いでしょう。

この記事では、司法書士が独立するメリットや注意点、成功するポイントなどについて解説します。

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司法書士受験生の約8割が将来は独立希望

アガルートの司法書士試験講座受講生のアンケートによると、司法書士試験を受験予定の方のうち約8割が将来独立することを検討しています。

司法書士として独立開業するメリット

司法書士として独立開業することには多くのメリットがあります。その代表的なものを紹介します。

高収入を狙える

司法書士は、独立開業した場合と勤務の場合を比べると、独立開業する方が高収入を得やすい職業です。

実際、独立開業した司法書士の売り上げで一番多いのが1,000~4,999万円(司法書士白書2021年度版)であり、全体の4割近くが年収1000万円以上という結果が出ています。

一方の勤務の司法書士の年収は300~600万円程度で、特別に高収入とは言えません。

高収入を狙うのであれば、独立開業することが欠かせないと言えるでしょう。

関連コラム:司法書士の年収とは?平均年収・業務の報酬・年収を上げるためのポイント

自由度が高くやりがいがある

独立開業することは、一国一城の主になるようなもので、理屈抜きで達成感や満足感を覚えるものです。

どのような仕事に力を入れるのか、どのような顧客をメインターゲットにするのか、どんな雰囲気の事務所づくりをするのか、働き方をどうするのかなど、決めるのはすべて自分です。

上司の顔色をうかがうようなことをする必要も当然ありません。

これは何物にも代えがたいメリットといえるでしょう。

何歳まで仕事を続けるかも自分次第です。

開業のハードルが低い

司法書士は、独立開業がしやすい職業です。

元々独立開業するのが前提ともいえる職業で、試験内容も実務に直結しており、新人研修も充実しています。

経営についてのノウハウがない人でも、一人でこじんまりと開業することも十分可能です。

実際、それほど社会人経験のない若手の司法書士やしばらく家庭に専念していた女性などでも独立開業して成功している人が大勢います。

関連コラム:司法書士の男性・女性の割合や年収は?働きやすさについても解説

比較的開業資金がかからない

開業するにあたって気になるのが開業資金ですが、司法書士の場合にはそれほどかからないのが一般的です。

もちろんスタッフを雇うかやテナントをどこで借りるかなどにより、開業資金には大きな個人差がありますが、自宅で一人でこじんまりと開業するという選択肢もあり、その場合は100万円程度でも開業できるでしょう。

実際、金融機関などから開業資金の融資を受ける人はそれほど多くなく、自己資金だけで開業することができます。

廃業リスクが低い

司法書士は数ある士業の中でも人数が少なく、過度な競争にさらされてはいません。毎年の合格者も1000人未満のため、合格者の大半が独立開業しても供給過多にはならないでしょう

また、営業が苦手という人であっても、たとえば成年後見人制度を担う司法書士団体に登録することで成年後見人の業務を受けたり、司法書士会などが主催する市民相談会に参加して顧客を得るなど、一定の仕事は得られるようになっています。さらに、2024年4月から相続登記の申請が義務化されることの影響を受け、市民の側から司法書士へのアクセスが増加傾向にあります。

そのため、仕事の選り好みなどをしなければ廃業リスクは低いと言えます。

司法書士として独立開業するリスク・注意点

独立開業することには、リスクやデメリット、注意しなければならない点もあります。代表的なものを紹介します。

一人で重責を負うプレッシャーと孤独

独立開業することで得られる自由とは表裏一体で、一人で全責任を負うプレッシャーや孤独もあります。

司法書士の仕事は他人の権利や財産にかかわるとても責任の重い仕事です。

法的に難しい判断を迫られる場面もあり、それを自分で一人で抱え込んでしまうと強いストレスを感じることがあります。

対策としては、同期合格者などとのつながりを持ち、業務上の相談などができる仲間を見つけておくとよいでしょう。

収入が不安定になるリスク

上述のとおり、司法書士はそれほど廃業リスクの高くない職業ですが、誰もがすぐに収入が安定するわけではありません

徐々に信頼を得ていくことで大器晩成する人も多く、開業してしばらくは不安定な状態が続く覚悟が必要です。

自分が家計の大黒柱になっている場合や住宅ローン等を抱えている場合など、経済的に厳しい期間が続く可能性もあります。

思い切りも大切ですが、ある程度の経済的な見通しを立てたうえで独立開業するのがおすすめです。

自ら営業する必要がある

独立開業した後は、自分で仕事を得ていかなければなりません

司法書士の場合、不特定多数に対して飛び込み営業や営業電話をかけるわけではありませんが、多くの人は最初から顧客が十分いるわけはないため、知人に紹介を頼んだり、ホームページを作成したり、SNSを活用したり、近隣の銀行、不動産会社等に挨拶をしたり、異業種交流会に参加するなど、様々な形で地道に人と知り合う努力をする必要があります。

そういったことが極端に苦手な人の場合、強いストレスを感じることもあるでしょう。

ただし、司法書士は司法書士会主催の相談会や成年後見人の団体などがあり、また、必ず一定の市民ニーズがあるため、営業が苦手でも一定の仕事を得る機会には恵まれています

司法書士の働き方は「独立開業」か「勤務」?

そもそsも、司法書士の働き方が大きく分けて「独立開業」「勤務司法書士」の2つがあります。

司法書士として独立開業する

自分の事務所を立ち上げて独立開業します。

はじめからテナントを借りて補助者(スタッフ)を雇う人もいれば、まずは自宅で一人でこじんまりと開業する人もいます。家族に補助者になってもらう人も多いです。

また、他の司法書士と共同で事務所を立ち上げるという人もいます。

自分の事務所なので、働き方や取り扱う業務等、決定権はすべて自分にあります。

一方で、仕事の全責任を自分一人で負わなければならないという面もあります。

勤務司法書士

司法書士事務所、司法書士法人、弁護士事務所などに雇用されて勤務司法書士として働きます。専門職のサラリーマンというイメージです。

毎月一定の収入を得ることができ、安定した生活が望めますが、勤務司法書士の収入は一般的にはそれほど高くはありません。

士業専門の就職エージェントを利用したり、司法書士会の求人広告を見るなどして勤務先を見つけるのが一般的です。

実務経験を積んで独立する人が多い

司法書士の働き方として多いのは、まずは司法書士事務所などに就職して実務経験を積んだうえで独立開業する道です。

必要な実務経験の年数は、司法書士試験に合格する前の社会人経験の長さや年齢、開業資金の多寡、目指すライフプランなどによって変わります。

一般的には、一年程度は実務経験を積むと、年間を通じた仕事全般を経験できるためおすすめです。

独立開業して成功する司法書士の特徴

独立開業する司法書士には、成功する人とそうでない人がいます。

ここでは、成功する司法書士にはどのような特徴があるのかについて紹介します。

業務知識以外のアピールポイントがある

司法書士は誰もが法律知識は十分に持っているため、他の司法書士と差別化を図るためにはそれ以外のアピールポイントが必要です。

アピールポイントというと特殊な能力が必要と思うかもしれませんが、決してそんなことはありません。

共感能力が高く、相手の話を丁寧に聞くことができる「聞き上手」であったり、他の司法書士よりもフットワークが軽い、対応がスピーディかつ丁寧、というようなことも十分なアピールポイントになります。

業務範囲を超えた他分野にわたる知識があるのも、大きな武器になります。

特に、不動産関係、金融関係、税務関係の知識はとても役に立ちます。

また、最近は日本の不動産を購入する外国人も増えており、外国語ができるのも強みとなるでしょう。

日頃から勉強を欠かさず、その時々の情勢に合った最新の知識を身に付けておくことも大切です。

様々な業務に積極的に取り組んでいる

司法書士の業務というと、以前は登記申請がほとんどでしたが、近年は多岐にわたっています。

簡易裁判所の裁判業務、遺言書作成や遺産承継業務などの相続関係業務、高齢者等の財産管理をする成年後見など様々です。

新たな業務に取り組むときは誰もが不安を感じるものですが、積極的に取り組むことで、自分の能力が高まり、仕事の裾野が広がっていくことにつながります。

お客さんから相談があったとき、「経験がないからできません」と答えてしまえば、二度とその人から相談が来ることはないでしょう。

経験のない業務であっても、新たに経験を積むチャンスととらえ、前向きな気持ちで取り組むことが大切です。

司法書士が所属する司法書士会では、様々な業務に関する実務研修も随時行っており、研修に積極的に参加して日々業務知識をアップデートしておくことも大切です。

独立開業して失敗する司法書士の特徴

独立開業しても上手くいかない司法書士もいます。どういう司法書士は失敗してしまうのかを紹介します。

顧客や業務を限定している

特定の顧客の仕事ばかりを受けていると、その顧客の意向や状況によっては急に仕事がなくなってしまうリスクがあります。

たとえば、ある銀行の支店の仕事ばかりを専属のような形で受けていたところ、あるときその支店が閉鎖してしまい仕事が一気になくなってしまうというケースも実際によく見られます。

継続的に仕事を出してくれる顧客がいることは大切ですが、そういう顧客の仕事ばかりをするのではなく、バランスよく様々な顧客と付き合う努力が必要です。

また、特定の業務ばかりをやっていると、その業務の需要が低くなると仕事が激減してしまう場合があります。仕事の幅が広がらず、他の仕事のやり方が分からなくなってしまうのです。

司法書士に認められた業務であれば、限定することなく様々な業務に積極的に取り組む姿勢が大切です。

報酬の安さを一番の売りにしている

他の司法書士との差別化を図るとき、一番簡単なのは報酬を安くすることです。

報酬の安さに惹かれて依頼する客も多いのは事実です。

ただし、これは長期的に見ると決して得策とは言えません。

安さだけを売りにしてしまうと、さらに安い司法書士が現れれば簡単に顧客を奪われてしまいます。

結果的にどんどん報酬を下げることにつながり、仕事に見合った報酬を得ることが難しくなってしまいます。

また、客層もあまりよくはならないでしょう。

安さを売りにすると、顧客からは感謝されるよりも、かえって軽く見られてしまうことの方が多いのです。

良心的な報酬設定にするのはよいことですが、過度な価格競争に陥らないようにすべきです。

それよりも、司法書士としての能力を高める努力をして、顧客と信頼関係を築く努力をすることが大切です。

独立開業までの流れと必要な準備

司法書士が独立開業するまでの準備は、下記のようになることが多いです。

  1. 司法書士試験に合格する
  2. 新人研修を受講する
  3. 司法書士登録をする
  4. 実務経験を積む
  5. 具体的な独立計画を立てる
  6. 開業に備えた人脈作り
  7. 事務所の契約や設備の準備
  8. 挨拶回りをする

STEP1:司法書士試験に合格する

例外的な方法を除き、まずは司法書士試験に合格する必要があります。

試験は年1回、筆記試験が毎年7月の第1週の日曜日に実施されます。

筆記試験合格者には10月に口述試験が実施され、最終合格の発表は11月となります。

関連コラム:司法書士試験の日程は?試験概要とスケジュールを解説

STEP2:新人研修を受講する

司法書士は、登録する前に新人研修を受講する必要があります。

新人研修は、中央研修、ブロック研修、単位会研修があり、司法書士としての心構えや倫理から実務の具体的な取り組み方などを学ぶ充実した内容となっています。

また、新人研修とは別に、簡易裁判所での訴訟代理業務を行う資格を得るための特別研修もあります。特別研修は必須ではありませんが、多くの合格者が受講します。

関連コラム:司法書士の「研修」とは?司法書士試験合格後の流れも解説

STEP3:司法書士登録をする

司法書士と名乗り、司法書士業務を行うためには、事務所を開設するエリアの司法書士会、日本司法書士会連合会への登録をしなければなりません。強制加入団体のため、たとえ試験に合格しても登録せずに司法書士になることはできません。

登録には、会費等で数十万の費用がかかります。

関連コラム:司法書士の登録にかかる費用は?入会金や年会費を解説

STEP4:実務経験を積む

試験に合格した後、新人研修を受けて登録をすれば、すぐに独立開業することも理論上は可能です。

司法書士試験は実践的な試験であり、登記申請書の書き方も受験勉強によって学んでおり、新人研修の内容も実践的なものとなっているためです。

ただし、勉強や研修だけでは知ることのできないことも多いため、通常は司法書士事務所・司法書士法人等で補助者(スタッフ)として実務経験を積む必要があります。

すでに合格する前に補助者として実務経験を積んでいる場合には、合格後すぐに独立するという選択肢もあります

実務経験を積む期間は、最低でも半年程度、できれば一年を通じた仕事の流れを知るために一年はあるのが望ましいでしょう。

20代から30代前半の若い人の場合には、2~3年経験を積みながら開業資金を貯めるのもおすすめです。

それより上の年齢の場合には、長く実務経験を経て年齢を重ねてから独立開業するよりは、1年程度で思い切って独立開業したほうが伸びしろが大きく、成功しやすい傾向があります。

STEP5:具体的な独立計画を立てる

実務経験と並行しながら、具体的な独立の事業計画を立てていきます。

以下のような点を中心に計画を立てましょう。

  • 開業場所・・・どこで開業するのか・事務所の立地・自宅かテナントかの検討
  • 開業の時期・・・いつ頃、何歳までに開業するか
  • 開業資金・・・初期費用(什器備品、司法書士業務支援ソフト、事務所の敷金礼金、ホームページ制作費、当面の運転資金など)の計算、その資金をどのように準備するかの検討(貯金、融資を受けるなど)
  • 開業後の資金計画・・・月々の経費(事務所家賃、什器や自動車等のリース料、司法書士会会費など)がいくらかかるのかの計算と、必要となる売り上げ目標の設定

STEP6:開業に備えた人脈作り

STEP4・5と並行しながら開業後にスムーズに仕事を始めるための人脈づくりも大切です。

人脈作りと言っても大げさに考える必要はなく、学生時代の友人や親せきに開業予定を伝えたり、他士業や他業種の人と知り合うための異業種交流会に参加するなど、自分にできそうなことをしてみましょう

SNSを活用するという方法もあります。

また、すでに独立開業している同業者の先輩から話を聞いてみるのもよいでしょう。独立後に悩んだときに相談できる同業者がいることはとても大切です。

STEP7:事務所の契約や設備の準備

事業資金が準備でき、勤務先を退職したらいよいよ実際に独立開業します。

テナントを借りる場合には物件を見つけて賃貸借契約をして、什器備品の購入あるいはリース契約といった作業を行います。

事務所のレイアウトなどは、事前によく考えたうえで事務所の契約をしましょう。

STEP8:挨拶回りをする

独立開業したら、自分が独立したことを知ってもらうために挨拶状を送ったり、挨拶回りをするのがおすすめです。

まずは自分の存在を知ってもらうことが大切で、友人知人にも自分が司法書士として独立したことを知らせましょう。ホームページを作成したり、SNSを活用するのもよいでしょう。

実務経験なしで独立開業は可能?

司法書士が実務経験なしで独立開業することは、不可能というわけではありません

司法書士試験は実務に直結した内容となっており、試験に合格していれば登記申請書の作成などはできるでしょう。

また、新人研修も実践的な内容が多いため、基本的な実務について学ぶことは十分できます。

とはいえ、勉強や研修だけでは分からないことが多いのも事実です。

仕事を始めてみて、初めて直面する場面や問題は多々あります。

そのため、たとえ短期間であっても実務経験を積むのがベターで、実際にほとんどの人が実務経験を積んでから独立します。他の職業での社会人経験が長い場合であっても、司法書士特有のルールやノウハウも多々あるため、司法書士業界の実務経験がないと難しいでしょう。

司法書士の仕事は他人の財産や権利にも関わる責任の重い仕事で、ミスは決して許されません。

実務経験なしでミスなく仕事をできる人は決して多くはなく、やはり実務経験があるに越したことはありません

まとめ

司法書士は独立開業しやすい職業です。実際、独立開業できる職業に就きたいという理由で司法書士を目指す人も多いです。

独立開業するメリットは多く、高収入を目指しやすい、自由な働き方ができることなどがあります。

司法書士は人の役に立つやりがいのある仕事で、独立開業することで自分らしい働き方、ライフプランを実現できます。

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三枝講師

この記事の監修者 三枝 りょう講師

三枝りょう講師



合格直後から予備校制作スタッフとして受験業界に携わり、翌年にプロ講師としてデビュー。

以来20年以上、プロ合格請負人として各資格スクールから講義を全国に配信し,安定して合格者を輩出。

受験指導総時間1万2000時間のベテラン講師。

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