税理士が中小企業診断士のダブルライセンスを取得するメリットはどういったものがあるのでしょうか。

これまで税理士が担ってきた税務書類の作成や記帳の代行業務では、会計ソフトが発展し浸透してきたことによって徐々に仕事が奪われていると感じるかもしれません。

今後、税理士だけで生活していくのは難しいと感じ、ダブルライセンスを検討している場合、中小企業診断士が1つの選択肢として出てくるのではないでしょうか。

そこで、税理士と中小企業診断士の資格の関連性や相性、メリットを説明したうえで税理士資格保持者にとっての中小企業診断士試験の難易度や免除科目について解説します。

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税理士と中小企業診断士の資格の関連性・相性

結論から言えば、税理士を持つ人が中小企業診断士の資格を持つことは非常に相性が良いといえます。

税理士と中小企業診断士の主な顧客は中小企業です。

そのため、顧客が同じという関連性があり、会計のみならず経営戦略に対するアドバイスができるなどメリットがあります。

また、後述するように税理士資格を持っていると中小企業診断士試験で受験を免除される科目もあり合格に有利になります。

そのためダブルライセンスによるメリットが大きく、中小企業診断士の取得を目指すべきでしょう。


実際に、会計事務所検索エンジン『2018年版 会計事務所白書【税理士・公認会計士編】』によると、公認会計士・税理士事務所で他の士業サービスをしている事務所の内10.5%が中小企業診断士の業務をこなしているという結果になっています。

公認会計士や税理士本人含めこの数字なので、税理士と中小企業診断士のダブルライセンスを持っている人もいることが分かります。

また税理士と中小企業診断士の仕事を組み合わせ、税務申告書作成と合わせて試算表を分析し、どの項目を改善するべきなのか、また試算表はどのように分析していけばよいのかを企業の目線に立ち助言し活躍している人も見受けられます。

※関連コラム:中小企業診断士のダブルライセンスにおすすめの資格を紹介

税理士と中小企業診断士のダブルライセンスを取得するメリット

税理士資格を持っている人が中小企業診断士の資格を取得すると、以下のようなメリットがあります。

①転職に有利になる

税理士事務所へ転職する場合と一般企業へ転職する場合いずれの場合であっても、中小企業診断士の資格を持っていることは有利になります。

税理士事務所へ転職する場合、企業は税務に関する相談のみならず経営に関する相談も望むことが多いです。

そのためダブルライセンスを持っていると、税理士としての税務業務のみならず、中小企業診断士の専門分野である経営コンサルティング業務を取り扱うことができ、より中小企業のニーズに対応できるようになります。

そのため採用されやすくなるでしょう。

また一般企業へ転職する場合、税理士資格を持っているので経理部などに回される場合が多くなります。

その際に中小企業診断士の資格を持っていると自己が計算した書類をもとに自社の経営コンサルティングをすることができるので、企業としては非常に有望な人材となります。

そのため企業もダブルライセンスを持っている人を積極的に採用することが見込まれます。

②仕事の幅が広がる

当然ですが、税理士資格のほかに中小企業診断士を持っていると職域が広がります。

税理士は税務書類の作成や記帳の代行、中小企業診断士は経営に対する診断と助言を行います。

取り扱うことのできる仕事の幅が広がれば、独立した場合、入ってくる案件も増加し仕事量を増やすことができます。

また、会社で勤務している場合も仕事の幅が広がることで、取り扱うことのできる事務が増え、昇進しやすくなるでしょう。

この場合には昇給手当を見込めます。

そのため独立した場合、会社で勤務している場合どちらもダブルライセンスを持っていると収入の増加につながりやすくなるといえるでしょう。

③顧客の信頼が向上する

税理士と中小企業診断士の顧客は、ともに中小企業が多いです。

また、中小企業庁『中小企業白書(2020年版)』によると、定期的な経営相談をしている企業の経営状況の相談相手は税理士・公認会計士が63.4%を占めており、一番多くの相談相手として税理士などが選ばれていることが分かります。

しかし、税理士の知識だけでは計算書類といった会計分野からのコンサルティングが多くなり、経営戦略を必ずしも十分に提案することができません。

中小企業診断士は地域経済の状況や中小企業に関する法律などに詳しく、今後どのように企業を成長させるかについて様々な観点をもとに指摘できます。

そのため、中小企業診断士の資格を持つことにより精度の高いコンサルティングを行うことができ、顧客の信頼が向上します。

④他の税理士との差別化を図ることができる

中小企業診断士は経営戦略に関する専門家です。

企業の経営分野での専門性を持つことが可能となり、独立している場合には他の税理士と差別化を測ることができます。

そのため依頼量の増加につながり、収入の増加を考えることができます。

⑤AIやITに代替されにくい職業を手にすることができる

IT技術の発展により会計クラウドサービスが登場し、記帳などの事務作業を個人でも簡単に行えるようになったため税理士の仕事の一部を行うことができるようになりました。

そのため税理士の仕事はAIに代替されやすい職業となっています。

一方、中小企業診断士の仕事は代替されにくい仕事の代表となっています。

中小企業診断士の仕事は経営コンサルティングであり、AIの苦手分野である柔軟な経営戦略の助言が必要となっているためと考えられます。

このため将来ITが更に発展し、税理士だけで働くことが難しくなった時に中小企業診断士として働くことができます。

※関連コラム:中小企業診断士は将来性・需要がある?AIに代替されないかを考察

税理士資格保持者にとって中小企業診断士試験の難易度は?

税理士資格保持者にとって、中小企業診断士試験は「税理士試験より難しくはないものの、重複しない科目が多いのでしっかり勉強する必要がある試験」ということができます。

税理士試験と重複する科目

税理士試験では、「簿記論」及び「財務諸表論」の2科目を学習し、受験したでしょう。

この科目で学習したことは中小企業診断士試験1次試験の「財務・会計」科目と2次試験の「中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 IV」科目でも出題され、学習範囲が重複しています。

そのため中小企業診断士試験では税理士試験で学習したことを生かすことができ、試験合格に有利となります。

※参考:中小企業診断士試験を突破する財務会計の勉強法4つのポイント

税理士試験には出てこない科目の割合

中小企業診断士試験では、「財務・会計」科目の他、経済学・経済政策、企業経営理論、運営管理 ( オペレーション・マネジメント )、経営法務、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策の合計7科目が出題されます。

また、2次試験でも「中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 IV」の他に「中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅰ~Ⅲ」が出題されます。

そのため税理士試験には出てこない科目の割合は多く、中小企業診断士試験の全体の80%以上の科目は税理士試験には出てきません。

学び直す必要があります。

※参考:中小企業診断士1次試験で最も難しい科目は?科目別の難易度を解説

試験自体の難易度の違い

税理士試験の合格までに必要な勉強時間は、一般に3,000時間といわれています。

一方、中小企業診断士試験の合格に必要な勉強時間は1,000時間とされており、税理士試験の3分の1にとどまります。

更に、税理士資格を持っている人は税理士試験と重複する科目の勉強は必要最小限で良く、中小企業診断士試験合格に必要な勉強時間はもっと短縮できます。

このため税理士試験に比べれば中小企業診断士試験は難しくはないといえるでしょう。

もっとも税理士試験では主に会計や税法分野の出題が多いのに対し、中小企業診断士試験では経済学など様々な分野から出題されるので、それらの科目についてはしっかりと勉強する必要があります。

※参考:中小企業診断士の独学合格は可能?必要な勉強時間や勉強法など解説

税理士資格保持者は科目免除も利用できる

中小企業診断士1次試験には、一定の資格保持者に対して科目免除制度があります。

これは、一定の資格を取得している人を対象に、特定の科目の受験を免除する制度です。

この科目を利用すると、特定の科目の受験が免除されるので当該科目を勉強する必要がなくなり、勉強時間の圧縮を測ることができるうえ、他の科目に集中できるというメリットがあります。

税理士資格を持つ人は「財務・会計」科目が免除になります。

税理士は簿記・財務諸表に対する知識が深く、中小企業診断士試験でこれらの知識を改めて問う必要がないということなのでしょう。

※関連コラム:中小企業診断士1次試験の科目免除とは?対象になる資格や期限を解説

まとめ

以上をまとめると、税理士を持っている人が中小企業診断士の資格を取得しダブルライセンスを目指すことは非常に良いといえるでしょう。

ここまでの要点をまとめると、以下のようになります。

・税理士と中小企業診断士は顧客が同じであり関連性が高く、相性の良い資格である

・税理士が中小企業診断士の資格を取得するメリットは5点

①転職に有利になること

②仕事の幅が広がること

③顧客の信頼が向上すること

④他の税理士との差別化を図ることができること

⑤AIやITに代替されにくい職業を手にすることができることがある

・税理士試験ほど難しくはないものの、中小企業診断士試験では税理士試験で学習した科目以外も出題されるのでしっかり勉強する必要がある

税理士が中小企業診断士の資格を取得すると様々なメリットがあることが分かりました。

新たに勉強する科目も多く、学習は大変ですが、ぜひ目指してみてはいかがでしょうか?

関連コラム:中小企業診断士とは?仕事内容や取得のメリット・なるまでの流れを詳しく解説

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この記事の監修者:三戸部裕司 講師

三戸部 裕司

2015年 国家総合職試験合格
2016年 東京大学 教育学部卒業
2022年 中小企業診断士試験合格
自身も働きながら中小企業診断士試験に合格。
その経験を元に社会人でも合格可能な、効率的で無駄のない講座を実施している。

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