司法試験に合格する上で多くの人は暗記力が必要であると考えるでしょう。

確かに,暗記は欠かせませんですが,それだけで司法試験に合格することはできません。

このページでは司法試験に合格する上で暗記がどのように位置付けられるのかについて説明していきます。

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司法試験に合格する上で暗記は必要条件だが十分条件ではない

1 司法試験は六法の内容を暗記する試験ではない

司法試験を受験した話をすると,六法全書を隅から隅まで暗記したと思われることが多々あります。

確かに,司法試験を受験する上で必ず覚えておかなければならない定義など,暗記をする必要がある事項はあります。

しかし,後で述べるように,暗記力だけで司法試験に合格することはできません。

2 司法試験で問われる能力

司法試験は,単に基本的知識や判例の理解を試すだけの試験ではなく,限られた時間の中で事案を分析し,問題の所在を抽出した上で,論理的で一貫性のある文章を書くことが要求される試験です。

すなわち,基本的知識に加え,事案分析能力や論点抽出能力,さらには答案作成能力が問われ,これだけでも司法試験が暗記力のみで合格できる試験ではないことが分かると思います。

司法試験に必要な暗記力とは

1 短答式試験

先ほども述べたように,司法試験では暗記をしなければならない事項があります。特に,短答式試験では暗記力が問われる場面が多いといえます。

例えば,平成29年度の刑法の短答式試験では,「未成年者誘拐罪は親告罪である」か否かが問われていますが,この問題は刑法229条で未成年者誘拐罪について親告罪が定められていることを知っていれば瞬時に解くことができます。

もちろん暗記だけでは対応できない問題もありますが,司法試験に合格する上で暗記力が必要であることに疑いの余地はありません。

※関連コラム:司法試験・予備試験の短答式試験の勉強法(総論)

2 論文式試験

司法試験では,事案分析能力や答案作成能力等,暗記力以外の能力が問われることは上述の通りです。このような傾向は,特に論文式試験に顕著といえます。

刑法の論文式試験では,各登場人物の罪責が問われますが,例えば,正当防衛が成立するか否かが問題となる場合があります。ここで刑法36条1項は,「急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない。」と正当防衛について定めていますが,「急迫不正の侵害」の具体的な定義は条文には書かれておらず,覚えるほかありません。

しかし,実際に正当防衛が成立するかを検討する上で,判例の事案とその判断枠組みを正確に読み解いた上で,問題文の各事実が持つ意味を理解しなければならず,これらの能力は暗記のみでは身に付くことはできません。

※関連コラム:司法試験・予備試験の論文式試験の勉強法(総論)

3 理解に裏付けられた暗記

これまで述べたように,司法試験では暗記は必要ですが,それだけでは足りず,理解が伴ったものでなければなりません。

これとは逆に,たとえ理解が伴っていても,これを正確に答案で示さなければ採点者は理解していないものと扱わざるを得ません。

つまり,暗記と理解は車の両輪のように,両者が揃って初めて意味があるのです。

大切なことは,日頃の勉強から「なぜ問題になるのか」ということを考え,さらに,実際にアウトプットを繰り返して覚えるべきことをしっかり覚えているかを確認することです。

司法試験に合格するための暗記量

司法試験に合格するためにはどのくらいの暗記量が必要なのか。これを定量的に説明することは難しいのですが、あえて数値を出すとすればアガルート重要項目をまとめた書籍「アガルートの司法試験予備試験 総合講義一問一答」が参考になります。この書籍は、科目別で7冊ありますが、合計約2000個の重要項目が収録されているので、これが暗記量の目安になるでしょう。

数だけでみると相当膨大であるように感じると思いますし、実際に覚えるべき事項が多いことには間違いないのですが、司法試験で暗記しておくべき事項は一言一句覚えておかなければならないものは非常に少ないので、そこまで身構える必要はないでしょう。

司法試験の学習において暗記はとても重要なのですが、学習初期段階から意識しすぎる必要はありません。先のとおり司法試験の暗記は一言一句覚えるという性質のものではなく、ポイントを押さえて頭に入れておけば十分です。しかし、学習初期段階ではどこがポイントであるか判断できないため、暗記はある程度学習が進んでからの方が効率的だと考えます。

暗記のコツを解説

最短で司法試験合格を目指すには、暗記も重要になります。

法律用語の定義や判例の判断枠組みなどについて、効率的に暗記するためのコツは、「優先順位を付ける」「『理解⇒暗記』の流れを意識する」「対象を絞って繰り返す」「細切れの時間や寝る前の時間を使って暗記する」ということです。

以下で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。

優先順位を付ける

司法試験の出題範囲は非常に広く、全てを暗記することは不可能と言えます。

そのため、勉強を開始して1周目では、まず全体像を捉えた上で、頻出の論点などを把握し、暗記する内容の優先順位を付けていくことが重要です。

ですから、勉強の1周目から全てを暗記しようとせず、どこが重要なのかを把握する意識を持っておくといいでしょう。

また、1周目からアウトプットを並行して行うことで、どこを押さえておけば最終的に問題が解けるかを理解しやすくなります。

はじめから解けないのは当然なので、どの部分が暗記事項として重要なのか?を理解する意味でアウトプットの練習を早期から行っていきましょう。

「理解⇒暗記」の流れを意識する

できる限り「理解⇒暗記」の流れを意識することも重要です。
そもそも法律というものは、色々なケースに対応するために、抽象的な内容になっています。

そのため、暗記する際には、頭の中で具体化して理解しながらインプットするとが必要になります。

具体的には、1周目の学習で「要するに」「例えば」をまずは言えるようにすることを意識しましょう。

例)「錯誤」という法律用語を覚える際
要するに:錯誤とは「勘違い」を指す言葉である
例えば:「勘違いで物の売り買いをしてお金を払ってしまったが、勘違いだったから要らなかった。」という時に使う用語である

このように、「要するに」「例えば」というキーワードを使って、理解しながら、暗記すると良いでしょう。

対象を絞って繰り返す

法律分野については1回理解しただけで、記憶を定着させることは難しいものです。

そのため、過去問などでアウトプットを繰り返しながら思い出す回数を増やしていくことが重要になります。

よく暗記が苦手な方は、はじめから全てを暗記しようとする傾向がありますが、その必要はありません。

それよりも、何度も繰り返して思い出す回数を増やすことに意識を向けるようにしてください。

思い出す回数が増えていくと、思い出すスピードが上がっていきます。

次第に、何も見なくても思い出せるようになります。

細切れの時間や寝る前の時間を使って暗記する

合格者の傾向として「時間の使い方が上手い」という特徴があります。

特に寝る前の時間を活用して勉強したり、移動時間に暗記をしたりする方法はおすすめです。

短期合格者の多くはそのような方法で勉強をしていらっしゃいます。

そのような細切れ時間の積み重ねで、暗記した内容も定着しやすくなります。

まとめ

司法試験では暗記をしなければならない事項があります。

特に、短答式試験では暗記力が問われる場面が多いといえます。
ただし、暗記だけでは試験を突破することができないため、理解をしながら暗記をすることが必要です。

暗記の重要箇所を早期から見極めることや、繰り返し学習することは合格への近道となります。
細切れ時間も活用して、何度も思い出し、できるだけ記憶を定着させるようにしましょう。

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この記事の監修者 富川 純樹 講師

富川 純樹 講師


関西学院大学法科大学院(未修)を卒業後,平成27年に司法試験に合格(69期)。


アガルートアカデミーでは,ラウンジ(個別指導)や受験生の受講相談も担当している。


富川講師の紹介はこちら

Twitter:@dsx79079

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