この記事を読まれている方は今、
「選択科目を決めなければならない、でもどうやって決めれば分からない。」
そんな状況にあるかもしれません。

選択科目を決める際には、

①習得に必要な勉強量
②内容の分かりやすさ
③知識としての有用性(実務に出た後にも活かすることができるか)

という視点から比較検討してみましょう。

本コラムでは、上記①②③の点について経済法はどのような特徴があるのかを説明します。

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経済法の特徴

選択科目としての経済法は、主に独占禁止法という法律の理解を問う科目です。

独占禁止法は、事業者が互いに「他社よりも良い品質の商品を作ろう」「より低価格で販売しよう」と競い合う結果、消費者はより良い品質の商品をより低価格で購入することができるようになり(これを「市場の競争機能」などと呼びます。)、ひいては国民経済が発展していくとの考えに基づき、市場の競争機能に悪影響を与える事業者の行為を規制する法律です。

試験においても、問題文に掲げられた具体的な事業活動が、独占禁止法による規制の対象となるか否かが問われます。

人の生命・身体・財産などの個別的・具体的な権利利益が保護法益ではなく、「市場の競争機能」という抽象的な概念が保護法益として現れる点が最大の特徴です。

経済法は何を学習するのか

独占禁止法は、刑法が犯罪類型を定めるように、規制対象となる行為類型を規定しています。

そして、ある事業者の事業活動がその行為類型に該当するかどうかは、(A)各条文に規定された行為に該当するか、及び(B)市場の競争機能に悪影響を及ぼす効果を有するかという2点で判断されます。

前者は「行為要件」、後者は「効果要件」などと呼ばれますが、行為要件と効果要件のいずれも充たす行為のみが規制されるというわけです。

経済法の学習も、「行為要件」と「効果要件」を理解することが中心となります。

「行為要件」の学習は、刑法における構成要件(特に実行行為)の学習と似ており、行為要件の要素ごとに、その意義について、主に判例法理を学びます。

他方で、「効果要件」の学習は、独占禁止法に特有の内容といえます。

効果要件は、保護法益である「市場の競争機能」に悪影響を及ぼすかどうかを判断する要件ですが、それを判断するには、そもそも「市場」はどこにどのような形で存在するのかを明らかにし、事業者の事業活動がその市場の競争機能にどのような悪影響を及ぼすかを説明しなければなりません。

刑法では、犯罪の成否を検討するにあたって、当該実行行為によって侵害される法益を特定したり侵害の有無を説明したりすることに苦労することが少ないと思いますが、経済法は、上記のように被侵害法益を特定したり侵害の有無を説明することが難しいという点に特徴があります。

経済法はどんな人に向いているか

経済法に関して、「企業活動への関心や理解がある人に向いている」などといわれることがあります。

確かに、「市場において競争者となる事業者はどのような行動をとることになるか」との想像が求められる点もあり、取引社会における常識的な発想ができる人に向いているとはいえます。

ただし、「これまで事業活動に携わった経験がないと理解が難しいのだろう」とか、「学生よりも社会人の方が有利な科目なのだろう」と考えることは全くの誤りです。

経済法においても、「過去の同種の事例において、裁判所(あるいは公正取引委員会)はどのような判断をしたか」というところを踏まえて具体的な事案を解決することが求められるのであり、ビジネス上の独創的な発想が求められるわけではありません。

これまでのビジネス経験の有無などは向き不向きを判断する指標とはなりません。

では、経済法はどんな人に向いているのか。

①習得に必要な勉強量
②内容の分かりやすさ
③知識としての有用性(実務に出た後にも活かすることができるか)

という視点でみてみましょう。

上記のとおり経済法では、ある事業者の行為が、独占禁止法により規制される行為類型に該当するか否かを、行為要件と効果要件に照らして判断することが求められますが、独占禁止法が規制する行為類型の数は非常に少ないです。

また、経済法の試験では、条文の趣旨や要件の意義について学説まで広く知っていることは求められません。

判例・実務の考え方をベースに、それを具体的な事案に正しく適用できるかどうかが問われます。

そのため、知識のインプットに関しては、「限られた行為類型につき、判例・実務の考え方」を理解すればよく、その意味で、経済法はインプット学習の量が少なくて済む科目であるといえます(①習得に必要な学習量)。

ただし、その反面、判例・実務の考え方に基づいた場合の具体的事案の処理については、丁寧かつ正確に行うことが要求されます。

したがって、理論的な学習よりも具体的なあてはめ(意味のある事実の抽出とその評価)が得意な人に向いている科目といえ、そのような人にとっては②分かりやすい科目ともいえるでしょう。

なお、③知識としての有用性(実務に出た後にも活かすことができるか)という観点からは、独占禁止法に関わる案件を扱う弁護士事務所は数として多くはなく、労働法や倒産法と比較すれば活用する機会は限られます。

他方で、独占禁止法の案件を取り扱う事務所へ就職することを希望している方や、あるいは企業のインハウスローヤーとして活動することを考えている方にとっては、試験勉強で得た知識をそのまま実務に活かすことができる点で大きな魅力となるでしょう。

経済法の勉強方法

① インプットの方法

基本書等を用いて行為要件の意義や効果要件の判断方法をひととおりおさえた上で、判例や公正取引委員会の実務において具体的事案ではどのような判断がなされているかということを学習してください。

試験で出題される事例は、判例実務において問題となった事案を改変した形のものも多く、過去の事案についての理解が試験問題を解くための大きな手がかりとなります。

定番の基本書としては「独占禁止法」(金井貴嗣ほか・弘文堂)「独占禁止法」(白石忠志・有斐閣)「独占禁止法」(菅久修一・商事法務」が挙げられます。

裁判所や公正取引委員会の下した判断については「経済法判例・審決百選」(金井貴嗣ほか・有斐閣)のほか、公正取引委員会のHPで公開されている「相談事例集」も参考となります。

独占禁止法の学習、特に効果要件についての理解は、具体的な事例を前提としなければ理解が困難です。

理解に悩んだら百選等に掲載された具体的な事例での判断を参考にしたり、あるいは実際に演習問題(アウトプット)に取り組んでみることが有益となる場合もあります。

② アウトプットの方法

既に述べたとおり、経済法はあてはめの良し悪しが勝負の分かれ目となる科目です。

したがって、インプットよりもアウトプットが学習の中心となります。

演習では司法試験の過去問を解きましょう。

選択科目の勉強時間を少なく抑えるのであればその他の事例演習教材まで取り上げる余裕はなく、また、その必要性も低いといえます。

司法試験の過去問を解く際には、簡単な答案構成だけで検討を終えるのではなく、

あてはめにおいて、問題文に記載された事実のうちどれを摘示するか
それらの事実をどのように評価するのか

というところまで検討するようにしてください。

その上で、出題趣旨や採点実感を読み込み、

解答を求められた事項が何だったのか
各事項についてどこまでの内容を解答することが求められていたのか

を読み取ってください。

なお、採点実感等では「触れてほしかった事実」については言及があるものの、それを具体的にどのように評価するか(文章としてどのように説明するか)というところまでは解説していません。

したがって、その点については市販されている教材の模範答案を参考にしたり、あるいは第三者からの添削や講評を得ることが必要となります。

※関連コラム:【司法試験・予備試験】選択科目ごとの合格率・難易度を解説!

経済法のおすすめ基本書

「インプットの方法」のところでは定番の基本書をいくつか紹介しましたが、ここでは、習熟度・レベル別におすすめの基本書を紹介します。

① 岸井大太郎ほか著『有斐閣アルマ・経済法(第9版補訂)』有斐閣

※引用:amazon

これから経済法を学習する方向けの書籍です。
他の書籍と比較すれば説明が平易であり、読みやすいと思います。
なお、入門書として使用する場合の注意点ですが、いきなり内容を全て完璧に理解しようとするのはやめましょう。
始めは、「独占禁止法ではどんな行為が禁止されているのか」をざっくりと理解するだけで十分です。

ある程度理解が進んだら「判例百選」や「相談事例集」で適用事例をチェックしてイメージを具体化し、それから基本書に戻って理解を深める、というようにインプットとアウトプットを交互かつ並行的に進めるようにしましょう。

② 菅久修一ほか著『独占禁止法(第4版)』商事法務

※引用:amazon

経済法をひととおり学習済みの方向けの書籍です。
内容が簡潔かつ網羅的にまとめられているため、知識を総ざらいするのに向いています。
一方で、説明がやや簡素であるため、入門書としての利用はあまりおすすめしません。

③金井貴嗣ほか編著『独占禁止法(第6版)』弘文堂

※引用:amazon

経済法をより深く学習したい、実務でも独禁法違反事件に携わりたいと考える方向けの書籍です。
教科書に指定しているロースクールも多く、内容の信頼度も高いといえます。

予備試験・司法試験で問われる知識との関係ではややオーバースペックですが、辞書的な使い方をする(分からないところを深掘りするのに使う)のであれば試験的にも有用な書籍です。

※関連コラム:司法試験・予備試験におすすめの基本書50冊【15科目・目的別】

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最後に

近年の受験傾向として、経済法を選択する受験生の数は増加しています。

司法試験受験者数のうち、経済法を選択する者の割合は13.58%程度(令和5年度)で、労働法に次いで第2位の受験者数となっています。
(平成18年度は10%程度で第4位でした)

その要因は様々考えられるところですが、「インプットに必要な勉強時間を少なく抑えられる」「記憶した知識の量ではなく、あてはめで他と差をつけることができる」との点が、選択科目としての経済法の魅力と捉えられているものと想像します。

このような傾向も選択科目を決める手がかりとしてみてください。

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この記事の著者 小島 武士 講師

小島 武士 講師

早稲田大学法科大学院修了後、平成25年に司法試験合格。

地方裁判所の刑事部・民事部担当裁判官として、訴訟事件だけでなく令状事件や民事保全等の各種事件を担当してきた経験を有する。

司法試験・予備試験の指導においてもその経験を活かし、机上の知識ではなく、実務にも通じる知識の指導に努めている。

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