裁判官という職業をご存じでしょうか。
裁判に関するニュースやドラマなどで登場することもあるため、聞いたことがあるという方も多いでしょう。

このコラムでは、裁判官の「仕事内容」「女性の割合」「罷免(裁判官を辞めさせられること)の条件」などの気になる情報について解説致します。

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【動画で解説】裁判官の仕事内容やはたらき方について解説

裁判官とは?わかりやすく解説

裁判官とは、「社会生活上の様々な紛争について、当事者の言い分や関係する証拠から事案の真相を解明し、法律を適用して最終的な判断を下すという役割を担う職業です。

日常生活では、様々な形で「紛争」が生じます。
「友人にお金を貸したところ、いつになっても返ってこない」、「親の遺産をどのように分けるか、兄弟間で意見がまとまらない」などが身近な例です。

また、「やってもいない痴漢の疑いで逮捕されてしまった」という場合など、無実を勝ち取るために警察などの国家機関と対峙することもあり得ます。
このような様々な紛争を解決する手続として、「裁判手続」があります。

裁判手続では、当事者が提出する主張と証拠から事実関係を明らかにすること、法律に定められたルールを適用して結論を示すことが行われます。

そして、この裁判手続において、「事実の解明」と「法律の適用」を行う人物が裁判官であり、適切な判断を下すことによって紛争を終局的に解決することが裁判官の使命となります。

※参考:裁判官

裁判官の仕事内容

裁判官の基本的な仕事は、裁判手続によって各種「事件」を処理することですが、裁判官が扱う事件は、大まかに「①民事事件」と「②刑事事件」に分かれます。
各事件について、裁判官の具体的な仕事内容を見ていきましょう。

①民事事件

民事事件とは、私人間の「権利」に関する紛争です。

例えば、お金を貸した友人がお金を返してくれないというケースは、「お金を返してもらう権利」に関する友人間の紛争であり、民事事件の典型例です。

また、会社が残業代を支払ってくれないというケースは、「賃金を支払ってもらう権利」に関する労働者と会社の間の紛争ですが、会社は私人に位置付けられるため、これも民事権の一種となります。

民事事件については、当事者間の話合いによって解決されることが理想的ですが、話合いによる解決を見込めない場合には、裁判手続が利用されることになります。

民事事件の裁判手続(民事裁判)は、基本的には、「権利」を主張する側の人物による申立てによって開始します。
民事裁判の目的は、当事者間で争われている「権利」の存否を明らかにすることです。

裁判官は、権利を主張する人(原告)とその相手方(被告)の双方に対して、言い分を説明させたり、根拠となる証拠を提出させたりします。

そして、双方の言い分や証拠を資料にして、事実関係(当事者間で過去にどのようなやり取りがあったのか)を明らかにします。さらに、明らかとなった事実関係に「法律」というルールを適用して、権利の存否を判断します。

裁判官が下す判断は「判決」と呼ばれますが、権利の存在を認める場合には「認容判決」、認めない場合には「棄却判決」が下されることになります。

このように、民事裁判における裁判官の仕事は、対立する私人の間に立ち、中立的な立場から判断を下し、紛争を終わらせるというものになります。

なお、民事事件には、離婚や相続など、家族内で生じる紛争も存在します。

そのような紛争を「家事事件」と呼びますが、家事事件では、単に中立的な判断を下せばよいというわけではなく、当事者の感情や人間関係などにも配慮した「妥当な解決策」を示すことが重要視されます。
例えば、夫と妻が紛争の当事者である場合、裁判官には、その双方から言い分を聴くというだけでなく、両者の間で板挟みになっている子どもの状況も調査し、子どもに与える影響も考慮した上で解決策を示すことが求められます。
このように、家事事件では、裁判官の仕事もやや特殊なものとなります。

②刑事事件

刑事事件とは、犯罪の発生から犯人の処罰に至るまでの一連の過程のことをいいます。

例えば、空き巣による窃盗被害が発生した場合、警察は手がかりとなる証拠を収集し、犯人を特定して、その身柄を確保します。
身柄を確保された犯人は検察官の下に送られ、検察官は追加の捜査を行うなどして、犯人を起訴するか否かを判断します。

検察官が起訴すると裁判手続が始まり、犯人とされている人物(被告人)が本当に罪を犯したのか否かが審理され、罪を犯したと認定される場合には、どの程度の刑を科すべきかについても審理されます。

そして、裁判官が最終的な判断を「判決」として下し、有罪判決が下された場合には、そこで言い渡された刑が執行されることになります。

以上のような一連の過程が刑事事件ですが、刑事事件についても、裁判手続によってそれを処理することが裁判官の仕事内容の中心となります。

刑事事件の裁判手続(刑事裁判)では、犯人の処罰を求める検察官と、犯人と疑われている人物(被告人)が対立当事者に位置付けられます。

そして、裁判官は、双方の言い分を聴いたり証拠を調べたりして事実関係(被告人がやったこと)を明らかにし、法律を適用して、処罰の可否や科すべき刑の重さを判断します。

「事実」と「法律」に基づいて判断するという点は、民事裁判と同様です。
ただし、刑事裁判では、「無罪推定の原則」(疑わしきは被告人の利益に)という特別なルールが存在します。

例えば、「本当に被告人が犯人なのか疑問が残る」という場合には、被告人を処罰することが許されません。
そのため、裁判官は、検察官と被告人の間に立ちながらも、検察官の言い分や証拠を厳しく検証するという姿勢で裁判手続を進行します。
この点は、「私人vs私人」という対等な当事者間で行われる民事裁判とは異なります。

また、刑事事件における裁判官の仕事は、裁判手続の進行以外にもあります。
例えば、警察が犯人の身柄を確保したり(逮捕)、犯人の自宅に立ち入って証拠品を確保したり(捜索・差押え)するには、法律上、裁判官の許可が必要とされていいるため、その許否を判断することも裁判官の仕事となります。
ドキュメンタリー番組やドラマにおいて、警察官が「令状を請求する」などの発言をしていることがありますが、あれは「裁判官に許可を求めてくる」ということを意味しています。

ちなみに、刑事事件の中でも、罪を犯した人物が20歳未満の者である事件を「少年事件」と呼びます。
少年事件は、通常の刑事事件と異なり、罪を犯した人物が成長途上の段階にあることから、「刑罰」を科すことよりも、適切な教育などの「処分」を下す方が更生につながる場合があり得ると考えられています。

そのため、少年事件では、処罰の可否を判断する刑事裁判に先立って、処分による更生の可否を判断する「少年審判」という手続が行われることになりますが、この少年審判の手続も裁判官が進行します。
少年審判では、その少年が犯した罪を明らかにすることのみならず、その生い立ちや家庭環境を調査するなどして、最も適切な教育や処遇を考えることが裁判官の仕事の内容となります。

仕事内容のまとめ

以上のとおり、裁判官の仕事は多岐にわたります。
ただし、いずれの仕事についても、裁判官には以下の能力が求められます。

  • 対立する当事者の言い分の双方に耳を傾けること
  • 証拠を丹念に調べて事実関係を明らかにすること
  • 法律を機械的に適用するだけでなく、当事者が納得できる解決策を示すこと

また、裁判官の仕事は、人の人生を左右する仕事です。
そのため、強い責任感を持つと同時に、その責任に押しつぶされないための覚悟や信念も要求されます。

このように言うと、裁判官という職業は辛いものに聞こえるかもしれませんが、しかし、重い責任の裏返しとして、やりがいも非常に大きい職業です。
紛争を抱えている人々は、日常生活を穏やかに過ごすこともできません。

裁判官の仕事は、そのような人々が日常の平穏を取り戻す手助けとなり、ひいては社会にある問題を取り除くということにも繋がります。

「人」の病気やケガを治す医者の仕事に対して、裁判官の仕事は「社会」の病気を治すものと例えられることがありますが、これは上記のような側面を表したものといえるでしょう。

裁判官が罷免される条件とは?

裁判官は、自己の意思に反して辞めさせられること(罷免されること)があるのでしょうか。
結論から言うと、裁判官が罷免される条件は非常に厳しく、その事例は極めて稀です。
憲法には、次のように定められています。

「第78条 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。」

ここでは、「公の弾劾」という特別な手続によらなければ罷免されないことが保障されています。
また、裁判官の弾劾については「裁判官弾劾法」という法律がルールを定めており、そこには次のように規定されています。

「第2条 弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
  1号 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき。
  2号 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行
    があったとき。」

※参考:日本の弾劾制度

以上のような規定を見渡すと、民間企業にあるような不況による人員削減ということはあり得ません。
また、罷免事由にはいずれも「著しく」や「甚だしく」との文言が使用されており、極めて限定的な場合を想定していることが窺われます。
また、実際に裁判官が弾劾によって罷免された事例も、僅か数件にとどまっています。

以上を踏まえると、裁判官の罷免は稀で、しっかりした身分保障をされていることが分かります。

このように裁判官の身分保障がしっかりとしている理由は、外部からの圧力をなるべく受けないようにする必要があるためです。

例えば、行政機関によって裁判官の身分をはく奪できるとした場合、裁判官は身分をはく奪されないように行政機関のいうことを聞くようになってしまうでしょう。
その結果、国民や少数派の利益を守ることができなくなってしまう恐れがあります。

裁判官は、国民の基本的な権利を守るため、行政機関を始めとする社会的・政治的勢力から圧力や影響を受けないようにしなければなりません。
そこで、罷免の条件を厳しくする等の身分保障を手厚くすることによって、裁判官が自律した立場で公正な裁判ができる仕組みが採用されています。

裁判官の女性の割合は?

裁判官の女性の割合は27%(2020年)
法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)の中で女性の割合が一番高い職業です。

裁判官における女性の割合は2005年から一貫して増加しており、今後も増加することが考えられます。

弁護士白書2020年版』によると、2020年における全裁判官は2,798人であり、その内男性の割合は73%、女性の割合は27%です。
同年における検察官の女性割合は25.4%、弁護士の女性割合は19.0%となっていることから、裁判官は法曹三者の中で最も女性の割合が高いことが分かるでしょう。

裁判官は、法曹三者の中で最も女性にとって働きやすい環境なのではないかと推測されます。

過去5年間の裁判官の数、女性の割合は以下のようになっています。

裁判官の人数女性の割合
2016年2,755人25.6%
2017年2,775人26.2%
2018年2,782人26.5%
2019年2,774人26.7%
2020年2,798人27.0%

このように、裁判官における女性の割合は過去5年間上昇し続けており、1.4%上昇しています。

また、2005年の女性割合は16.5%でそこから一貫して上昇を続け、15年間で10%上昇するなど急激な伸びを見せていることも分かります。

今後も裁判官の女性割合は増加することが予想され、更に女性にとって働きやすい環境が整えられるのではないでしょうか。

まとめ

裁判官について、理解を深めることができたでしょうか。

このコラムの要点をまとめると、以下の3点が挙げられます。

裁判官の仕事は「紛争」の解決であるが、紛争の内容には様々なものがあり、裁判官の関与の仕方も一様ではない

裁判官は、外部からの影響を受けないように、罷免の条件が極めて限定されているなど身分保障が充実している

女性の割合は27%で、今後も上昇していくことが考えられる

裁判官になるには、司法試験に合格する必要があります。
司法試験は難しい試験ではありますが、裁判官の仕事はやりがいも大きく、社会の病気を治すという唯一無二の職業でもあります。
ぜひ目指してみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者 小島 武士 講師

小島 武士 講師

早稲田大学法科大学院修了後、平成25年に司法試験合格。

地方裁判所の刑事部・民事部担当裁判官として、訴訟事件だけでなく令状事件や民事保全等の各種事件を担当してきた経験を有する。

司法試験・予備試験の指導においてもその経験を活かし、机上の知識ではなく、実務にも通じる知識の指導に努めている。

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