一橋大学法科大学院(ロースクール)入試の過去問の出題傾向と対策について解説しています。

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入学試験要項(一般選抜・法学既修者)

募集人員・競争倍率

(1) 募集人員

45 名程度

法学既修者の募集人員については、ⓐ在学中の大学を3年で卒業できる制度(早期卒
業制度)により卒業見込みである志願者、及び、ⓑ飛び級の出願資格による志願者を
対象とする特別枠の制度がある。その特別枠を含めて 45 名程度を募集する。この制度
は、特別枠に出願した者の中から上位 10 名程度を選抜することを予定している。

この他に、5年一貫型教育選抜 20 名程度を募集する。

(2) 競争倍率

2024 年度:4.71 倍(募集人員 45 名程度、第3次選抜合格者数 57/志願者数 212)
2023 年度:5.67 倍(募集人員 45 名程度、第3次選抜合格者数 52/志願者数 295)
2022 年度:5.82 倍(募集人員 55 名程度、第3次選抜合格者数 67/志願者数 390)
※小数点第3位を四捨五入
※5年一貫型教育選抜は 1.00 倍
※2021 年度〜2019 年度(5年一環型教育選抜導入前)は 2.59 倍〜3.47 倍

選考方法

「一般選抜」では、英語の成績による第1次選抜の合格者に対して、第2次選抜を行う。
第2次選抜は、法学論文試験(民事法〔民法・民事訴訟法〕・刑事法〔刑法・刑事訴訟法〕・
憲法)の結果と、第1次選抜の成績・自己推薦書・学業成績の審査結果を総合して行う。

そして、第2次選抜の合格者に対して、第3次選抜として面接試験を行い、面接試験の結果と
第2次選抜試験までの結果を総合して最終的な合格者を決定する。

⑴ 第1次選抜

TOEIC または TOEFL iBT の成績により、定員の約3倍を目安として選抜する。
2024 年度:最終合格者平均点 879.7、最高点 980、最低点 760
2023 年度:最終合格者平均点 814.7、最高点 990、最低点 720
2022 年度:評価項目とせず
2021 年度:評価項目とせず
2020 年度:最終合格者平均点 693.9、最高点 985、最低点 500
2019 年度:最終合格者平均点 718.8、最高点 985、最低点 450
※2023 年度は TOEFL iBT 受験者の換算点を含む

⑵ 第2次選抜

法学論文試験の結果と、第1次選抜の成績及び自己推薦書・学業成績の審査結果を総合
して行う。

⑶ 第3次選抜

面接試験の結果と第2次選抜までの結果を総合して行う。面接試験は法律知識を問うも
のではない。

法学論文試験

(1) 出題形式

民法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法・憲法の5科目について、専門知識を前提として、
問題分析力、思考力、記述力等を審査する。

なお、試験場において法令集(判例解説付きでない六法)を貸与する。
専門知識のほか、問題発見能力、分析・統合能力、論理的思考力及び表現力等を採点基準とする。

法学論文試験については、5科目(民法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法・憲法)の各
科目の得点が、一定の水準(本法科大学院第2年次の授業に参加し得る水準)に達しない
場合、第2次選抜の総合得点の順位にかかわらず不合格とする。

(2) 試験時間

民事法(民法及び民事訴訟法) 10:00 ~ 12:15(135 分)
刑事法(刑法及び刑事訴訟法) 13:30 ~ 15:45(135 分)
憲法 16:30 ~ 18:00( 90 分)

(3) 答案用紙の形式について

不見当(ただし、民事系及び刑事系は 30 行×2頁/問、憲法は 30 行×4頁との不確定情報がある。)

※関連コラム:一橋大学法科大学院の特徴・入試情報

法学論文試験の傾向と対策

総論

基本的な論点に関する出題、具体的には百選掲載判例や近年の重要判例に関する出題が多い
(そこで、本講座の解答例においては、サイドコメントとして、関連する(裁)判例の年月日
を掲載するとともに、百選掲載判例については、その最新版の判例番号を付することとした。)。

ただし、常に判例と全く同じ事案が出題されているわけではなく、事案の異なる問題も出題さ
れている(特に憲法・民法・刑法)。そのため、単に判例の判旨だけを記憶するような学習では
不十分であり、事案の概要、問題の所在、規範(理由付けを含む。)、あてはめに加え、周辺知
識まで含めて、正確に理解・記憶することが重要である。

また、試験時間は私立の法科大学院に比べて長く、求められる解答量も多くはないものの、
競争倍率や受験生全体のレベルが高いことから、他の受験生に差をつけるべく、基礎基本・原
理原則から丁寧に積み重ねる答案を書く必要があり、時間や答案用紙の紙面が不足することが
予想される。そのため、基本的事項については、正確かつ簡潔に記載できるように、事前に準
備しておく必要がある。加えて、論点の取捨選択や、メリハリをつけた論述も必要になる。

なお、一部応用・発展的な問題が出題されることがあるが、そのような問題についても完答
しなければ合格できないという試験ではない。応用・発展的な問題の前提となっている基本的
事項に関し正確な理解を示すことができれば、十分合格することができるであろう。

憲法

内容面としては、平等原則、表現の自由(集会の自由)、職業選択の自由(営業の自由)及び
信教の自由に関する出題が多い。

また、近時は出題されていないものの、過去においては統治(とりわけ選挙関係)についての出題も多くなされていた。したがって、これらの分野につい
ては、重点的に準備しておくことが必要であろう。とはいえ、これらの分野以外からの出題も
当然予想されるため、どのような出題がされても最低限は「守れる」ような準備をすべきであ
る(以下、他の科目についても同じ。)。

形式面としては、近年、いわゆる主張反論型での出題が続いているが、近時の司法試験・予
備試験の傾向の変化を受けて、今後はいわゆる意見書型での出題も予想されるところである。

もっとも、意見書型においても、「反論を踏まえて」論じることが求められるのが常であるため、
問われている本質的な事項には全く変化がない。推奨されるのは王道の学習であり、答案表現
上の小手先のテクニックを覚えるような学習方法は全く無意味である。

民法

内容面としては、未成年者、錯誤、詐欺、時効、物権総論、留置権、譲渡担保、詐害行為取
消権、保証、危険負担、売買(契約不適合責任)、賃貸借、不当利得、不法行為及び日常家事債務に関する出題が比較的多いが、それ以外にも全ての分野から満遍なく出題されているといってよい。したがって、特定の分野に偏ることなく、準備すべきである。

形式面としては、例年大問が2問出題される。また、請求や主張の可否を問う一般的な出題
形式が基本であるが、近年は、「反論」を踏まえて、解答することを求める出題が多い。さらに、
「解答に際しては、条文を指摘し(『第〇条によれば』と指摘すれば足り、条文の文言を引用す
る必要はない)、必要があれば適宜場合分けをしなさい」といった問題文の指示があるのが一橋
民法の特徴である。

なお、「法科大学院入試」であるので、無理に要件事実的な論述をする必要はなく(建前上、
要件事実は法科大学院で学習することになっている。)、「請求→法的根拠→要件→効果」「反論
→法的根拠→要件→効果」という民法答案の基本的な枠組みを守りつつ、その枠組みの中で問
題となる論点について法的三段論法で論じるという、法律家としての正しい思考回路を文章に
すれば足りる(ただし、要件事実的な発想は、主張反論構造を把握する上で極めて有用である
ことは言うまでもない。)。

刑法

内容面としては、実行行為(実行の着手時期)、因果関係、故意(錯誤)、正当防衛、間接正
犯、未遂犯(不能犯、中止犯)、共同正犯(成立要件、射程、離脱)、幇助犯、住居侵入、窃盗、
強盗、詐欺、横領、放火、偽造、公務執行妨害、犯人隠避に関する出題が多い。

また、罪数処理が必要となる問題も多いため、最後まで気を抜いてはならない。
形式面としては、例年大問が2問出題され、第1問が刑法総論、第2問が刑法各論からの出
題である(第1問の方が難易度は高く、論じる分量も多いことが多い一方で、第2問は比較的
簡易な問題が出題される傾向にある。)。

また、「○の罪責を論じなさい」といった一般的な出題形式が基本である。
判例の結論のみをおさえておく学習法では、対応が難しい問題も出題される。
判例が採用した見解をおさえつつも、反対説にも配慮するように、普段から学習するよう心がけることが必要である。

民事訴訟法

内容面としては、当事者適格、一部請求、相殺(相殺と二重起訴)、訴えの利益(確認の利
益)、処分権主義、弁論主義、権利自白、既判力(客観的範囲、主観的範囲)、及び複雑訴訟
(通常共同訴訟、必要的共同訴訟、独立当事者参加、補助参加)からの出題が多い。

形式面としては、一般的な出題形式ばかりであり、論ずべき分量も少ない出題が多い(稀に、
「反論」を踏まえることや「場合分け」を求められる場合がある。)。

刑事訴訟法

内容面としては、捜査法分野の出題も一部では見られるものの、公訴・公判分野及び証拠法
分野からの出題が多数を占める。また、近年は、やや刑事実務的な理解を問う問題も出題され
ている。

形式面としては、設問が複数の小問に分かれていることが多い。また、近年は少なくなって
きたものの、一時期は、基礎となる重要判例の事実や判旨が問題文に引用され、その判例及び
刑事訴訟法の基本的事項の正確な理解を梯子として、これまで考えたことのないような発展的
事項について現場で思考させるタイプの出題が多く続いていた。

このような出題傾向からすると、推奨されるのは、刑事訴訟法の基本原則や重要判例を、実
務を踏まえて深く正確に理解するという王道の学習であり、答案表現上の小手先のテクニック
を覚えるような学習方法は全く無意味である。

※関連コラム:法科大学院(ロースクール)入試の対策・試験科目・勉強方法を解説

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豊崎章央

この記事の著者 豊崎 章央 講師

豊崎 章央 講師

慶應義塾大学文学部 卒業、東北大学法科大学院 修了。
アガルートアカデミーにて司法試験・司法試験予備試験の指導を行う。弁護士として法律事務所を運営。

弁護士を志す前は、三井住友銀行にて勤務していました。そして、現在は弁護士として法律事務所を運営しています。
これらのことから、就職活動や実務について、受講生から多くの相談を受けてきました。
今後も、学習面でも、それ以外の面でも、皆様のサポートができるよう尽力いたします。

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