このコラムでは、刑事訴訟法の基本書である『刑事訴訟法(酒巻 匡著)』の内容と特徴、どのような人に向いているのかについて解説します。

司法試験合格に向けて刑事訴訟法の基本書を一冊手元に置いておきたいけれど、どれを選べば良いのかわからないという方も少なくないのではないでしょうか。

書店で手に取ってみた基本書が司法試験の学習に適切なものであるのかどうかは実際に使用してみないとなかなかわからないものです。

そこで今回は、実際に『刑事訴訟法(酒巻 匡著)』の内容と特徴、どのような人に向いているかを解説していきます。

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『刑事訴訟法(酒巻 匡著)』の内容と特徴

※引用:amazon

『刑事訴訟法(酒巻 匡著)』は、法学教室連載「刑事手続法を学ぶ」(法学教室355号−394号[2010年−2013年])を加筆補正し、単行本化した基本書です。

「刑事手続法を学ぶ」は、法学部や法科大学院で刑事訴訟法を学習する読者を想定し、方分野の理解・習得にとって肝要な基本的事項を体系的に解説することを目的として連載されています。

『刑事訴訟法(酒巻 匡著)』も​​​​刑事手続の諸制度の趣旨・目的とそこから導かれる法解釈を丁寧に解説したものになっています。

理解が難しい論点である「強制処分と任意処分」や「比例原則」といった概念についても理論及び実務の観点から踏み込んだ解説があり、これらの論点の理解が必須である司法試験の学習においてはおすすめできる基本書であると言えるでしょう。

司法試験の勉強での使い方

この章では、『刑事訴訟法(酒巻 匡著)』を司法試験の勉強でどう活用すれば良いのかについて解説していきます。

初学者からその一歩先へ

本書は司法試験の学習においては、初学者からその一歩先へ踏み出すために使用するのが適切です。

上述のように、本書は刑事訴訟法の基本的事項を体系的に解説するものですが、その中で理解の難しい論点について踏み込んだ解説がなされています。

そのため、完全な初学者にとって本書はとっつきにくいばかりか、むしろ理解が困難になってしまうかもしれません。

逆に言えば、一通り刑事訴訟法を学習している人にとっては「漠然と使っていた警察比例の原則はこういうことだったのか」「いつも書いていたあの論証はこういう意味だったのか」など、気づきや理解が深まる場面が多くあるでしょう。

司法試験における考査委員の視点が分かる

『特に、本件の場合、「会話は直ちに録音して保全しなければ消失してしまうこと」が録音の必要性(「緊急性」)を基礎づける有力な一事情となり得るが、そのような点にまで注意を払って論じられていた答案は少数にとどまった。』(平成27年司法試験採点実感)

司法試験における刑事訴訟法では、基本的な論点に対する深い理解と事実を適切に評価する能力が問われます

そのため、考査委員の先生がどのような“視点”を持って問題を作成しているのかを知っておくことは非常に有用です。

本書の著者である酒巻先生は現在早稲田大学法科大学院の教授ですが、平成27年司法試験の考査委員の経験を持っています。

そのため、本書には上述のような論点に対する理解や事実の評価の“視点”を知るという意味においても司法試験の学習に適切であると言えます。

具体的にどのように使うか

本書の基本的な使い方としては、演習や答案練習を行う中で出てきた論点や概念について調べるといういわゆる“辞書”的な使い方がメインになると思います。

本書は体系書という性質上600頁を超えるページ数があり、司法試験の学習では他の科目との兼ね合いから通読する時間はないという人もいるでしょう。

“辞書”的な使い方をすることで、自分の答案と本書の解説を比較できます

同じ考え方を採っていればその論点に対する理解を深め、異なる評価をしていればそのような“視点”としてストックすることで充実した問題演習を行うことができます。

『刑事訴訟法(酒巻 匡著)』の評価

本書は、

  • 刑事訴訟上の基本的論点や概念について踏み込んだ解説がなされている点
  • 司法試験考査委員の視点を知ることができる点

で非常におすすめできる基本書です。

そのため、本書は一通り刑事訴訟法の学習を終えた中〜上級者向けの基本書と言えます。

そして、単著という性質上、酒巻先生の学説がメインで解説されているため、(もっとも、区別した上で通説にも言及があります。)刑事訴訟法上の論点につき通説や学説の対立を知っていなければ、むしろ混乱を招くおそれがあります。

そのような意味においても本書は、初学者から一歩踏み出しこれから本格的に司法試験の学習を始めようとする人におすすめの基本書であると言えます。

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