AIの発展や行政手続きの簡素化により、社労士の独占業務はなくなるのでしょうか。

これから社労士を目指そうと思っている方にとって独占業務がなくなるかどうかは、社労士の将来性に大きく関わる重要なことですよね。

そこでこのコラムでは、社労士の将来性や今後の需要がどうなるのか、社労士の独占業務が本当になくなるのか等を詳しく見ていきます。

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社労士の仕事の将来性や需要はどうなる?

今後も社労士の需要はあり、将来的はより高まるという見方が濃厚です。

2024年度社労士実態調査』の社労士の「過去と比べた需要変化」によると、以下の業務内容で需要が増えたという結果になりました。

社労士の業務内容増えた需要の割合
労働及び社会保険に関する相談業務71.5%
各種規定作成、改定、整備に関する業務66.2%
手続き業務(手続きに関連する相談も含む)59.1%
コンサル業務(企画・立案・制度設計及び実施のための運用、アドバイス)57.7%
給与計算業務50.1%

コラムを読んでいる人の中には「社労士の資格を取得しても意味がない」という話を聞いたことがある人もいるかもしれません。

社労士はやめとけと言われている理由には、独占業務が深く関わってきているようです。

社労士の資格取得を目指す人にとって、社労士の今後についてとても気になりますよね。

なぜ社労士は意味がないと言われることがあるにもかかわらず、社会保険労務士は将来性があり、今後も需要があると考えられているのか。

詳しく見ていきましょう。

社労士の独占業務とは

独占業務とは、その資格を持つ者でなければ携わることができない業務で、独占的に行うことができるものをいいます。

簡単に言えばその資格を持っている人だけができる仕事です。

では、社労士の独占業務とはどういったものでしょうか?

社労士の独占業務は1号業務と2号業務に分かれます。社労士法の条文番号から、このような名前がつけられています。

独占業務①(1号業務)

独占業務の1つ目は、行政機関に提出する労働社会保険諸法令に基づく申請書、届出書、報告書などの作成や代行、及び労使間の紛争の代理人や行政機関に対する主張の代理人になることです。

簡単に言えば、行政機関に提出する労務書類の作成や当事者の代理人となることです。

行政機関に提出する書類は多く、しかも法改正も頻繁に行われます。

このような書類の作成は総務課で行うことが多いですが、他の仕事をしつつ書類を作成することは大変です。

そこで、社労士が専門的な知識を生かして書類を作成することにより、企業は業務の効率化を図ることができます。

また、行政が労務に関して会社に意見を聞くことがあります。

社労士が会社の代理人として専門的な観点から説明することで、情報をスムーズに伝えることができます。

独占業務②(2号業務)

独占業務の2つ目は、労働社会保険関係法令に基づく帳簿書類を作成することです。

簡単に言えば、企業で持っておくべき書類を作成することです。

企業は、法律に基づいて、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿という3つの帳簿を作成しなければいけません。

また、常時10人以上の規模の事業場については就業規則の作成・届出義務があり、その就業規則の作成も社労士の独占業務です。

これらの帳簿について、専門的知識を有する社労士が精度の高い帳簿を作成することができます。

AIの到来で社労士の独占業務はなくなる

社労士は独占業務があるからこそ安泰だと考え、資格を取得する人も多いです。
しかし、その社労士の独占業務がなくなるかもしれないという声もあります。

そもそもなぜ独占業務がなくなるという懸念があるのかというと、手続きの代行や帳簿作成といった書類の作成は定型業務であるため、AIの活用や行政手続きの簡素化などにより機械的に行うことができ、独占業務の必要がなくなるからというのが理由です。

たしかに、これらにより社労士の仕事の量が減る可能性はあります。

しかし、結論としては社労士の独占業務は今後もなくならないといえます

AI時代になっても社労士の独占業務がなくならない理由

なぜなくならないのか?

それには以下のような理由が挙げられます。

  1. 新たな労務制度が作られるたびに、社労士の仕事が必要になる
  2. AIが苦手な分野も社労士は対応できる

1. 新たな労務制度が作られるたびに、社労士の仕事が必要になる

AIは従来の積み重ねに対応することは得意ですが、新たな労務管理システムなど対応できない分野が出てきます。

例えば同一労働・同一賃金という新しい政策の決定に当たり、就業規則の改定が必要になります。これは、2号業務に当たります。

この仕事は、単に法律に合わせて就業規則の文言を修正するだけのものではありません。

その事業所の正社員と非正規社員について定義し、それぞれの職責、職務の範囲、配置転換の有無等を明確にし、賃金や福利厚生の適用の違いを示します。

AIは就業規則を作成しますが、それは従来の制度にのっとった規則です。かりに、AIが作った就業規則をそのまま使ってしまうと、新制度での法令違反のおそれがあります。

社労士が新制度を踏まえた就業規則を作成することで、適法性を担保でき従業員も安心して働くことができます。

このように、法改正や新制度に詳しい社労士ならではの仕事は、やはりAIが担うことはできないので社労士の仕事はなくならないといえます。

2. AIが苦手な分野も社労士は対応できる

そもそも1号業務・2号業務は単純な事務仕事ではありません

例えば、労働基準法には、4種類の変形労働時間制について規定がされています。

どの変形労働時間制を採用したかにより、必要とされる手続きが異なります(労使協定の締結や就業規則への記載)。

もちろん、社労士は必要とされる手続きを行なうわけですが、ここで何よりも重要なことは、事前の相談業務です。

各制度のメリット、デメリット、労働者への影響、発生する人件費の額等を示しつつ、その事業所ではどの変形労働時間制を採用するのが望ましいのか、事業主に的確なアドバイスを与えます。

1号業務・2号業務であっても、単に定型の手続きを行なうだけではないのです。

AIは書類作成や事務仕事は得意ですが、それぞれの事業所の特徴を踏まえた的確なアドバイスをすることは苦手です。

社労士は高度な専門性を持ち、労働管理の専門家としてどのような言葉を使えば分かりやすいか、どのような説明を行うことが有利かを判断することができます。

このような判断はAIが行うことは難しく、社労士ならではの仕事といえるでしょう。

このように、独占業務には社労士だからこそできる仕事が含まれています。

そのため、AIの進歩や行政手続きの簡素化が進んだとしても、社労士の独占業務はなくならないといえるでしょう。

3号業務に対しての需要が高まる可能性も

実は独占業務である1号・2号以上に、3号業務に対しての需要が高まる可能性があると考えられています。

例えば、昨今、新型コロナウイルスが蔓延し、各社は急遽テレワークへの対応等を求められることになりました。
この時に各社が苦慮したのは、テレワークでの労務管理です。

どのようにして適切な労務管理を行うのか、
あるいは新しい働き方に合わせてどのように社内制度をチューニングするのか、、、
様々なことを検討しなくてはならなくなりました。

事実、テレワークで感じた課題について企業からアンケートを行ったところ、労働時間の管理等、社労士が支援できる項目に対して、企業が課題を感じていることが見て取れます。

テレワークで感じた課題

  • 34.2%:労働時間の申告が適正かどうかの確認が難しい
  • 31.8%:勤怠管理が難しい
  • 27.5%:在籍・勤務状況の確認が難しい
  • 14.7%:労働災害の認定基準が分かりづらい
  • 6.1%:労働時間の適正な申告が徹底されていない

※出典:テレワークの労務管理等に関する実態調査

また、それ以外にも近年、様々な検討が企業に求められています。
ダイバーシティやSDGs、男性の育児休業の促進や女性管理職の登用、定年延長等、、、
会社の在り方さえ変わらざるを得ない世の中となってきています。

このような状況下で、どのように会社を運営し、社員を守るかを考えるとなると、社内の監督者だけでは追いきれないのではないでしょうか。

様々な労働環境の変化に対して、いち早く情報を察知し、法律的な視点も持ち合わせた社労士は、多くの活躍の場を開拓することが出来るはずです。

様々な国内の環境変化を鑑みると、社労士には十分に需要・将来性があると考えられるでしょう。

まとめ

社労士の将来性や今後の需要について、ご理解いただけたでしょうか。

本コラムをまとめると以下の通りです。

  • 社労士は将来性のある仕事で、今後の需要もある
  • 社労士の独占業務をすべてAIが代替することは難しい
  • 独占業務でない3号業務の需要が高まる可能性もある

社労士は「人」に関する専門家と言われます。

必ずしも定型化できないのが人であり、そこに社労士としての仕事の面白さと奥深さがあります。

今後も社労士の仕事は求められると考えられるため、社労士を目指してみてはいかがでしょうか。

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この記事の監修者 竹田 篤史講師

社会保険労務士事務所、司法書士法人勤務後、大手資格予備校にて受講相談、教材制作、講師を担当。

短期合格のノウハウをより多くの受講生に提供するため、株式会社アガルートへ入社。

これまで、ほぼ独学で行政書士試験、司法書士試験に合格し、社会保険労務士試験には一発で合格。

自らの受験経験で培った短期合格のノウハウを余すところなく提供する。

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