社会保険労務士は試験の合格後、資格要件を満たしたうえで、社会保険労務士名簿に登録する必要があります。

資格要件は「2年以上の実務経験」または「事務指定講習の受講」の2つです。どちらかを満たしていなければ、社会保険労務士としての登録・活動ができません。

今回は、資格要件のひとつに挙げられている「事務指定講習」について解説します。事務指定講習を受けるべきか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

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社会保険労務士の事務指定講習とは?

社会保険労務士になるためには、試験合格後に「事務指定講習」を受ける必要があります。

ただし、条件を満たせば受けなくて良い場合もあるため、まずは自分が受けるべきかを知るところから始めましょう。

事務指定講習の概要と、受講が免除される人の条件を解説します。

事務指定講習の概要

社会保険労務士の事務指定講習とは、社会保険労務士になるための実務経験を踏む目的で受ける講習です。
正式名称を「労働社会保険諸法令関係事務指定講習」といいます。

前提として、社会保険労務士の資格要件は法律で以下のように定められています。

第三条 次の各号の一に該当する者であつて、労働社会保険諸法令に関する厚生労働省令で定める事務に従事した期間が通算して二年以上になるもの又は厚生労働大臣がこれと同等以上の経験を有すると認めるものは、社会保険労務士となる資格を有する。
一 社会保険労務士試験に合格した者二 第十一条の規定による社会保険労務士試験の免除科目が第九条に掲げる試験科目の全部に及ぶ者

つまり、試験に合格したあと、さらに2年以上の実務経験か、それに相当すると厚生労働大臣に認められることが必要とされます。

しかし事務指定講習を修了することで、2年以上の実務経験に相当すると認めてもらえます。
そして実際に実務経験が2年未満であっても、社会保険労務士としての登録が可能です。

なお、ここでいう「実務経験」とは、労働保険や社会保険といった社会保険労務士が扱う法律に関する実務に携わった実績のことです。

事務指定講習を受講する日程や場所・費用は?

事務指定講習を受ける時期や受講料などは、下記の通りです。

対象者社会保険労務士試験の合格者で、実務期間が2年未満の人
定員なし(申込期間内であれば受講可能)
受ける時期社会保険労務士試験の合格後(合格の翌年以降でも可)
※ただし、2課程を同一年内に修了する必要あり
受講時期・期間通信指導課程:例年2月~5月(受講期間:4か月)
面接指導課程:例年7月~9月
(受講期間:e-ラーニングの場合は4か月以内、映像投影の場合は4日間)
受講場所自宅など、通信環境のある場所
※自宅での受講が難しい場合は、東京都の研修センターで受講可能
受講料7万7000円
申し込み方法期間内に受講申込書を事務局宛に郵送して申し込み
(申込期間:例年11月1日~12月1日)

この事務指定講習を終了すると、修了証が交付されます。
修了書に有効期限はありません。

ただし再発行もできないため、紛失に注意しましょう。

事務指定講習を受けなくても良い人の条件

事務指定講習は、以下の条件を満たす場合は受講不要です。

  • すぐに社会保険労務士として開業する予定のない人
  • 実務経験が2年以上ある・または実務経験を得られる機会がある人

すぐに社会保険労務士として開業する予定のない人

直近で社会保険労務士として開業する予定がなければ、事務指定講習は受けなくても構いません。

そもそも事務指定講習は、社会保険労務士の資格要件である「2年以上の実務経験」を免除してもらい、早くから社会保険労務士として活動を始めるために受講するものです。
そして社会保険労務士試験は、一度合格すればその資格は生涯有効です。

つまり、先に試験に合格しておき、事務指定講習は翌年以降に受講する、としても問題ありません。

そのため、早々に社会保険労務士として活動を始める訳ではないのなら、事務指定講習は受けなくても良いでしょう。

実務経験が2年以上ある・または実務経験を得られる機会がある人

すでに実務経験が2年以上ある、またはこれから社会保険労務士事務所などに就職して実務経験を得られる見込みがある人も、事務指定講習は受講不要です。

事務指定講習は、2年以上の実務経験を得るのが難しい人が受講するものです。

すでに相応の経験がある、または経験を得る見込みがあるなら、あえて受講する必要はありません。

事務指定講習の内容

事務指定講習では、以下の科目について学習します。

  • 労働基準法及び労働安全衛生法
  • 労働者災害補償保険法
  • 雇用保険法
  • 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
  • 健康保険法
  • 厚生年金保険法
  • 国民年金法
  • 年金裁定請求等の手続

これら科目の学習方法には、「通信指導過程」と「面接指導課程」の2つがあります。
それぞれどんな講習内容なのか、解説します。

通信指導課程

通信指導課程では、雇用保険の届出方法や労災保険の給付手続き業務といった内容を、事例を通して学習します。
複数の企業の事例を参考に、提出すべき書類の種類・形式を身に付けます。

通信指導課程の受講時期や学習方法は下記の通りです。

  • 受講時期:例年2~5月
  • 学習方法:教材を使った自学自習形式
  • 受講期間:4か月

通信指導課程では、課題を提出して添削指導を受けなくてはなりません。取り組む課題は、数十件に上ります。

「できる時に進める」「期間終了間際に急いで仕上げる」という姿勢では、期日までに課題を提出できない可能性もあります。

もし期日内に提出できなければ、「事務指定講習を受けなかった」とみなされるため注意が必要です。
しっかりとした学習計画を立て、地道に取り組むようにしましょう。

面接指導課程

面接指導課程では、健康保険法・国民年金法といった科目を学びます。

「面接指導」とありますが、いわゆる「面接」対策の講座ではなく、社会保険労務士となるために必要な知識を深めるための講義です。

面接指導課程の受講時期や学習方法は下記の通りです。

  • 受講時期:例年7~9月
  • 学習方法:eラーニング(オンデマンド配信)による学習または都内会場での映像投影による学習
  • 受講期間:eラーニングの場合は4か月以内、映像投影の場合は4日間(1日3時間)

数年前までは面接指導課程の会場が全国に設けられ、そこで講義を受けて学習する方式でした。
しかしコロナ禍に突入して以降は対面の講義はなくなり、eラーニングでの学習が中心になりました。

自宅に通信環境がない場合は、都内に設けられる会場での学習も可能です。
ただしこの場合も対面での講義はなく、投影される映像を通じて学習する方式が取られます。

どちらの学習方法にせよ、1科目3時間の講義を受講します。

eラーニングの場合は、4か月以内に全科目の受講を完了させれば問題ありません。
会場での学習の場合は、4日間の講義にすべて出席する必要があります。

また、面接指導課程は通信指導課程を受講した年に受ける必要があります。
「今年は通信指導課程だけ、面接指導課程は来年受講する」といった方法はできません。

この面接指導課程を修了したら、事務指定講習も修了です。

事務指定講習を受講する3つのメリット

事務指定講習を受講することには、以下のメリットがあります。

  • 実務未経験でも知識・スキルが身に付く
  • 短期間で社会保険労務士になるための要件を満たせる
  • 会場での学習の場合、ほかの受講生と出会える可能性もある

それぞれについて解説します。

実務未経験でも知識・スキルが身に付く

事務指定講習の受講により、全く経験のない人でも社会保険労務士としての知識・スキルを身に付けられます。

特に異業種から社会保険労務士を目指す場合、社会保険労務士が扱う業務の経験が全くないことも珍しくありません。

しかし事務指定講習では、実際の法律や書類の様式にも触れながら学習を進めます。
修了後は、社会保険労務士に求められる知識・スキルを持った人材になれるでしょう。

短期間で社会保険労務士になるための要件を満たせる

事務指定講習を受講すると、社会保険労務士としての登録に必要な「2年以上の実務経験」が免除されます。

事務指定講習の受講期間は、半年ほど。つまり、最短で本来の約1/4の期間で社会保険労務士として活動できるようになるということです。

別の仕事をしながら社会保険労務士を目指す方や、早々に社会保険労務士としてのキャリアを積み重ねていきたい人にはぴったりでしょう。

会場での受講の場合、ほかの受講生と交流できる可能性もある

面接指導課程を都内会場で受講する場合は、ほかの受講生と出会って交流できるかもしれません。
社会保険労務士を目指す同志として、互いを高めあう良い機会となるでしょう。

ただし近年、面接指導課程の学習方法はeラーニングが中心で、会場での受講を選ぶ人は少ないことも考えられます。

そのため、このメリットだけを目的に受講を検討すると、期待が外れてしまうリスクもある点に注意してください。

事務指定講習を受講するデメリット

メリットの多い事務指定講習ですが、唯一のデメリットが料金の高さです。

7万7000円という高額な受講料に加え、面接指導過程の受講方法を映像投影にする場合は、交通費もかかります。

ただ本来であれば2年間必要な実務経験が、短期間の受講だけでクリアできるのは未経験の方にとっては大きな魅力と言えるでしょう。

事務指定講習によくある質問

最後に、事務指定講習についてよく寄せられる、以下の質問に回答します。

  • 受講はいつ頃したほうがいい?
  • 働きながら受講することは可能か?
  • 課題で間違った場合はペナルティがある?
  • 課題提出が遅れた場合はどうなる?

受講はいつ頃したほうがいい?

社労士試験合格後すぐに受講するのがおすすめです。

試験のために学習した内容がまだ定着しているうちに受講したほうが、課題をこなすのもスムーズでしょう。

ただし仕事の都合などで受講するのが難しい場合は、次年度以降の申し込みでも問題ありません。

働きながらでも事務指定講習を受講できる?

働きながら、事務指定講習を受講することは可能です。
しかし、特にスケジュール管理には注意が必要な点もあります。

最初に受講する通信指導課程では、期日までに多くの課題を出して添削指導を受けなくてはなりません。

万が一、期日までに提出・添削指導を受けられない場合は「事務指定講習を受講しなかった」とみなされてしまいます。

また、その後受講する面接指導課程も、1科目3時間の講義を、複数の科目分受講しなくてはなりません。
もし会場での学習をする場合は、指定された4日間の講義にすべて参加する必要もあります。

そのため、別の仕事をしながら事務指定講習の受講・修了をするためには、綿密な学習計画や事前のスケジュール調整が必須となるでしょう。

課題で間違った場合はペナルティがある?

たとえ事務指定講習での成績が悪くてもペナルティはなく、途中で受講できなくなることはありません

事務指定講習は試験ではなく、あくまでも「講習」です。
そのため、たとえ課題の出来が悪く多数の添削が入っていたとしても再提出を求められることがある程度です。

成績不良を理由で受講できなくなることはありませんので安心してください。

課題提出が遅れた場合はどうなる?

通信指導課程の課題を期限内に提出しきれなかった場合は、「事務指定講習を受講しなかった」とみなされます。

必ず期限内に課題を提出するように心がけましょう。

実務経験がないなら事務指定講習を受講しよう

未経験・異業種から社会保険労務士を目指すなら、事務指定講習は受講しておきましょう

社会保険労務士の資格要件である「2年以上の実務経験」を免除されるほか、現場で必要となる知識・スキルを短期間で身に付けられます。

ただし多数の課題が出されたり、多くの科目の学習が必要になったりするため、事前のスケジュール調整は必須です。

事務指定講習は社会保険労務士試験の合格後であればいつでも受講できるため、どうしても日程の目処が立たなければ、受講するタイミングを調節しても良いかもしれません。

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