紛争解決手続代理業務を行える特定社会保険労務士。

2007年に誕生したばかりなためか、その仕事内容についてはまだあまり知られていません。

そこで本コラムでは、特定社会保険労務士とは何か、社労士とはどう違うのか、取得するにあたってどのようなメリットがあるのかを記載いたします。

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特定社会保険労務士とは?社労士とは何が違う?

特定社会保険労務士とは、個別労働紛争における代理人としての業務が認められた社労士のこと。

一般的な社会保険労務士は労働法や社会保険に関する専門知識を活かし、企業や個人にコンサルティング業務や、労務管理書類の作成代行を行います。
一方で特定社会保険労務士は先ほどの業務に加えて、紛争解決手続きの代理業務を行うことが可能です。

1990年代以降、職場の嫌がらせやいじめ、残業代の未払い、不当解雇、セクハラやパワハラといった個別労働紛争等が増加したことにより、2005年にADR法が制定されました。
これによって、法律的サポートができる人員の拡大が必要となり、2007年には社会保険労務士法が改正。
紛争解決手続き代理業務試験(通称:特定社労士試験)に合格をし、かつ付記申請をした社労士に対して、紛争解決手続きの代理業務が認められることになったのです。

特定社会保険労務士と社労士との一番の違いは、通常の社労士業務に加えて紛争解決手続きの代理業務が可能になった点と覚えておきましょう。
取り扱いできる業務は増えるものの、社労士の上位資格ではありませんのでご注意下さい。

紛争解決手続(ADR)代理業務とは?

紛争解決手続き代理業務とは言っても、多くの人にとっては聞きなれない言葉ではないかと思います。
一般的に裁判外紛争解決手続き(以下、ADR)と呼ばれるものです。

紛争解決手続(ADR)とは、訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与し、その解決を図る手続きのこと。
裁判によることなく、法的なトラブル解決が可能となるのです。

特定社会保険労務士となることで、本手続きの代理人として、あっせんや調停、あるいは仲裁の手続きによって、ADR業務を行うことができます。

具体的には、以下のような業務内容が挙げられます。

  1. 都道府県労働局及び都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続等の代理
  2. 都道府県労働局における障害者雇用促進法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法及びパートタイム・有期雇用労働法の調停の手続等の代理
  3. 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理(単独で代理することができる紛争目的価額の上限は120万円)

※代理業務には、依頼者の紛争の相手方との和解のための交渉及び和解契約の締結の代理を含む

あっせん、調停、仲裁の違いとは?

あっせんとは、特定社会保険労務士が中立な立場になり、労働問題の紛争を当事者双方の意見を公平に聞くことで解決を促す行為のこと。
当事者による自主的な解決に比重が置かれ、「話し合い」によって解決を目指します。
調停もあっせんと似た傾向にありますが、解決案(調停案)の受諾勧告があるのが違いです。
一方で仲裁は仲裁委員に判断に委ねます。仲裁委員の判断は裁判の判決と同様の強制力を有しているため、あっせんや調停と比べて強制力があります。

特定社会保険労務士になるには?

①受験資格

社労士試験に合格するだけではなく、社労士として登録を行っていなければなりません。

※登録には、2年以上の労働社会保険諸法令に関する実務経験または全国社会保険労務士連合会が実施する事務指定講習の終了が必要

②特別講習

毎年行われている特別講習を修了することで、紛争解決手続き代理業務試験を受験することが可能となります。

特別講習は中央発信講義(30.5時間)、グループ研修(18時間)、ゼミナール(15時間)で構成されており、全ての講義への参加が必須です。
一度でも欠席をすると修了と認められない厳しい講習となっているため、事前のスケジュールの調整が欠かせません。

講習の内容は、社労士試験と異なり、憲法や刑法、民法も範囲となるため、非常に多岐にわたる内容となります。
労働社会保険諸法令でも、労働契約法や社会保険労務士法といった、社労士試験ではボリュームゾーンではなかった内容が多く、これまでの知識を更に生きたものとするための学習が必要となるでしょう。

③試験

特別講習を修了した者は試験に臨むことができます。

毎年設定される合格点を超え、かつその後全国社会保険労務士連合会に対して付記申請をした者のみが、特定社会保険労務士となれます。

全て記述方式なのがこの試験の一番の特徴。(社労士試験ではマークシート方式)

法的な知識はもちろんとして、それを文章化する力や、どのような構成で論述するかなどが求められる、非常に難易度の高い試験となっています。

例年の合格率は以下の通りです。

実施年受験者数合格者数合格率
2023年(第19回)892人502人56.3%
2022年(第18回)901人478人53.1%
2021年(第17回)950人473人49.8%
2020年(第16回)850人526人61.9%
2019年(第15回)905人490人54.1%
2018年(第14回)911人567人62.2%
2017年(第13回)890人510人57.3%
2016年(第12回)1,019人647人63.5%

2023年に開催された第19回特定社会保険労務士の受験者数は892人に対して、合格者数は502人、合格率は56.3%という結果になっています。

※参考:紛争解決手続代理業務試験の結果について

2016年から2021年の特定社会保険労務士の合格率は50~60%前後で推移しています。

特定社会保険労務士試験の合格率は令和3年度の49.8%は過去5年の合格率54%~63%と比べ低いことがわかります。

合格率だけ見ると合格しやすい印象がありますが、63.5時間の厳しい特別講習を修了する必要があります。

上記データを見ると合格率の高い試験にも思えますが、社会保険労務士の試験に合格し、かつ特別講習を修了した者の中での合格率と考えると、その難易度は想像に難くありません。

特別講習の内容を理解するだけでなく、時間内で自分の考えをまとめ、それをアウトプットする学習を行うことが必要になるでしょう。

特定社会保険労務士を目指す必要性・メリット

特定社会保険労務士となるにはそれなりの労力と時間がかかるため、「紛争解決手続き代理業務を扱う予定はないから、特定社会保険労務士までは目指す必要がない」とお考え方も多いかと思います。

しかし、特定社会保険労務士としての業務を行う予定がない方でも、多くの学びを得られる講習・試験となっています。

紛争解決手続き代理業務試験は、前述した通り全てが論述試験。
そして、特別講習の中でも、各人の考えを基に、労働問題を議論する時間が多くあります。

つまり、知識をアウトプットするだけでなく、それを相手に伝えるための法的な論理力や、法律以外の知識も学ぶことができます。

社労士としての強みをさらに活かしていくのであれば、本講習・試験は大いに役立つのではないでしょうか。

まとめ

特定社会保険労務士の概要、社労士との違い、紛争解決手続(ADR)代理業務について、特定社会保険労務士になる方法などを解説してきました。

  • 特定社会保険労務士は、個別労働紛争における代理人としての業務が認められている
  • 特定社会保険労務士になるとADR業務を行うことができる
  • 特定社会保険労務士になるには、社労士として登録を行い、特別講習を修了した後、試験に合格する必要がある
  • 特定社会保険労務士の合格率は50~60%前後で推移している
  • 特定社会保険労務士を目指すと多くの学びを得られ、社労士としてさらにレベルアップできる

社労士としてもう一歩前へ進みたい、知識を増やしていきたいという人にとって、特定社会保険労務士を目指すことは大きなメリットがあります。

社労士試験合格後の次の目標として、定めてみてはいかがでしょうか。

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