医療・介護・教育などの現場でソーシャルワーカーの需要が高まる現在、社会福祉士の資格取得を考えている方は多いのではないでしょうか。

社会福祉士国家試験の受験には、福祉系大学・短期養成施設等での一定のカリキュラムの履修が必要です。近年そのカリキュラム(社会福祉士養成課程)が見直され、新カリキュラムへと移行されました。

このコラムでは社会福祉士の新カリキュラムの変更点や科目、実習免除の条件などについて解説します。

これから資格取得を考えている方、旧カリキュラムとの違いを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

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社会福祉士の新カリキュラムはいつから?

令和3年度以降の社会福祉士養成校入学者から、新カリキュラムによる教育が行われています(一般養成施設は令和6年度以降から実施)。なお、社会福祉士国家試験の出題範囲が新カリキュラムの内容となるのは、令和6年度(2024年度)第37回の試験からです。

平成19年度の改定以降、見直しがされていなかった社会福祉士養成課程ですが、急速な高齢化社会の進展・経済格差・児童虐待の増加等の社会的課題の増加に伴い、カリキュラムの再考と充実が求められるようになりました。

複雑・多様化する生活課題に対応するためには、より高いソーシャルワーク機能を持つ社会福祉士の育成が欠かせません。また、政府が目指す地域共生社会の実現のためにも、実践能力の習得ができるカリキュラムへの改定が必要でした。

見直しの方向性(社会福祉士養成課程における教育内容等の 見直しについてより抜粋)と移行スケジュールは、以下の通りです。

見直しの方向性(抜粋)

  • 養成カリキュラムの内容/実習及び演習の充実
  • 実習施設範囲の見直し等

移行スケジュール

  • 令和元年から周知を行う
  • 令和3年度より大学・短大・専門学校等で新カリキュラムを順次導入

カリキュラム見直しの背景には、社会の急速な高齢化・多様化・複雑化によって、個人や世帯への支援のニーズが増加したことがあります。

格差社会拡大による、就労支援・児童支援の重要性の高まりも大きな要因でしょう。

社会福祉士のカリキュラムの変更点とは?

社会福祉士のカリキュラム変更は、以下の4項目を柱に行われました。

  1. 養成カリキュラムの内容の充実
  2. 実習及び演習の充実
  3. 実習施設の範囲の見直し
  4. 共通科目の拡充

ここからは、それぞれの変更点を解説していきます。

1. 養成カリキュラムの内容の充実

地域共生社会に関する科目の創設

地域共生社会を学ぶ科目「地域福祉と包括的支援体制(60時間)」は、旧カリキュラムの「地域福祉の理論と方法」と「福祉行財政と福祉計画」を基に創設されました。

履修することで、社会福祉士の職務や責務を理解し、多機関と協働して行う包括的な相談支援体制の仕組みなどの知識を習得できます。

ソーシャルワーク機能を学ぶ科目の再構築

ソーシャルワーク機能の実践能力のある社会福祉士養成のため、「講義―演習―実習」の学習循環が構築されています。

同時に、社会福祉士と精神保健福祉士の養成課程の共通科目と、社会福祉士の専門的な学習内容を明確にするために科目を再構築しました。

見直し前の科目と見直し後の科目名と履修時間の対応表は以下を参照ください。

見直し前の科目名時間数見直し後の科目名時間数
6. 相談援助の基盤と専門職606. ソーシャルワークの基盤と専門職30
7. ソーシャルワークの基盤と専門職(専門)30
7. 相談援助の理論と方法1208. ソーシャルワークの理論と方法60
9. ソーシャルワークの理論と方法(専門)60
20. 相談援助演習15020. ソーシャルワーク演習30
21. ソーシャルワーク演習(専門)120
22. 相談援助実習18023. ソーシャルワーク実習240

※共通科目の「6. ソーシャルワークの基盤と専門職」「8. ソーシャルワークの理論と方法」「20. ソーシャルワーク演習」については、精神保健福祉士養成課程との合同授業が認められています。

司法領域に関する教育内容の見直し及び時間数の拡充

新科目「刑事司法と福祉」は、見直し前の「更生保護制度」を基にしています。

司法と福祉の連携をより促進し、司法領域で社会福祉士が果たすべき任務が遂行できるように教育内容を見直しました。時間数も15時間から30時間に拡充されています。

見直し前の科目名時間数見直し後の科目名時間数
19. 更生保護制度1519. 刑事司法と福祉30

社会福祉に関する指定科目、基礎科目の必修化

社会福祉士に求められる知識等をより適切に学ぶために、必修科目が増やされました。

これまでの複数科目から1科目を履修する仕組みを変更し、全科目が必修となりました。

ただし大学等においては、一部の科目に関して選択した1科目での履修が認められます。対象となる科目は以下の通りです。

  • 人体の構造と機能及び疾病
  • 心理学理論と心理的支援
  • 社会理論と社会システム から1科目選択
  • 就労支援サービス
  • 権利擁護と成年後見制度
  • 更生保護制度      から1科目選択

2. 実習及び演習の充実

ソーシャルワーク機能を学ぶ科目の再構築

社会福祉士の演習科目は、講義で学んだ知識・技術を使って、具体的な事例を用いて実践的にソーシャルワーク機能の基礎を習得します。

新カリキュラムでは上記の見直し、再構築が行われました。

社会福祉士と精神保健福祉士の養成課程の共通科目と、社会福祉士として専門的に学ぶべき内容を明確化するためです。

これまで「相談援助演習」の1科目で学んでいましたが、新カリキュラムでは「ソーシャルワーク演習」と「ソーシャルワーク演習(専門)」の2科目となります。

ただし共通科目の「ソーシャルワーク演習」は、精神保健福祉士養成課程との合同授業が可能です。

見直し前の科目名時間数見直し後の科目名時間数
20. 相談援助演習15020. ソーシャルワーク演習30
21. ソーシャルワーク演習(専門)120

ソーシャルワーク機能の実践能力を養う実習時間数の拡充

ソーシャルワーク機能の実践能力を有する社会福祉士の養成のため、施設や事業所等の現場で学ぶ実習科目の時間数を拡充し、2以上の実習施設で実習を行うこととなりました。

この狙いは「地域の多様な福祉ニーズ」「多職種・多機関協働」「社会資源の開発等」といった、実際の福祉の現場での実態を学ぶことです。

見直し前の科目名時間数見直し後の科目名時間数
22. 相談援助実習18023. ソーシャルワーク実習240

実習免除の実施

介護福祉士・精神保健福祉士の資格がある場合(履修中も含む)、60時間を上限に社会福祉士の養成課程の実習が免除されます。

既に福祉の専門職である介護福祉士・精神保健福祉士の資格を持つ方の負担軽減を図る措置です。

新カリキュラムでの実習免除の条件については、この後の章で解説していきます。

3. 実習施設の範囲の見直し

実習施設範囲の拡充

地域の多様な福祉ニーズを学べるように、以下のような実習施設の範囲の拡充を行いました。

  • 社会福祉士の実習施設を、社会福祉士国家試験の受験資格の実務経験として認められる施設等と同等にする
  • 法人が独自に実施する事業等でも実習を行う

新カリキュラムで実習施設の範囲に含まれる施設等の例として、都道府県社会福祉協議会・教育機関(スクールソーシャルワーカー)・地域生活定着支援センター等が挙げられます。

4. 共通科目の拡充

精神保健福祉士養成課程の教育内容と共通科目の拡充

ソーシャルワークの専門職である社会福祉士と精神保健福祉士。これらを相互に資格取得を希望する際の負担軽減を図るため、共通となる科目数・時間数を拡充しました。

社会福祉士と精神保健福祉士、それぞれの専門性に留意した学習内容となっています。

見直し前の共通科目時間数見直し後の共通科目時間数
1. 人体の構造と機能及び疾病301. 医学概論30
2. 心理学理論と心理的支援302. 心理学と心理的支援30
3. 社会理論と社会システム303. 社会学と社会システム30
4. 現代社会と福祉604. 社会福祉の原理と政策60
8. 地域福祉の理論と方法607. 地域福祉と包括的支援体制60
9. 福祉行財政と福祉計画30
11. 社会保障605. 社会保障60
13. 障害者に対する支援と障害者自立支援制度309. 障害者福祉30
15. 低所得者に対する支援と生活保護30専門科目へ
16. 保健医療サービス30専門科目へ
18. 権利擁護と成年後見制度306. 権利擁護を支える法制度30
13. 刑事司法と福祉30
14. ソーシャルワークの基盤と専門職30
16. ソーシャルワークの理論と方法60
18. 社会福祉調査の基礎30
20. ソーシャルワーク演習30
時間数合計420時間数合計510
参考:社会福祉士養成課程における教育内容等の 見直しについて

社会福祉士の新カリキュラムの科目一覧

社会福祉士の新カリキュラムの科目一覧と、一般養成施設・短期養成施設でのそれぞれの時間数は以下の通りです。

科目一般養成施設
での時間数
短期養成施設
での時間数
1医学概論30
2心理学と心理的支援30
3社会学と社会システム30
4社会福祉の原理と政策6060
5社会福祉調査の基礎30
6ソーシャルワークの基盤と専門職30
7ソーシャルワークの基盤と専門職(専門)30
8ソーシャルワークの理論と方法6060
9ソーシャルワークの理論と方法(専門)6060
10地域福祉と包括的支援体制6060
11福祉サービスの組織と経営30
12社会保障60
13高齢者福祉30
14障害者福祉30
15児童・家庭福祉30
16貧困に対する支援30
17保健医療と福祉30
18権利擁護を支える法制度30
19刑事司法と福祉30
20ソーシャルワーク演習30
21ソーシャルワーク演習(専門)120120
22ソーシャルワーク実習指導9090
23ソーシャルワーク実習240240
時間数合計1200時間690時間

社会福祉養成課程の見直しによって、必修化による科目増加や負担軽減措置などが行われました。

それに伴い、新カリキュラムでは科目数が増えています。そして短期養成の方は、時間数についても660時間から690時間と、30時間の増加となっています。

社会福祉士国家試験の受験資格は変わる?

2024年1月現在、社会福祉振興・試験センターの受験資格案内ページでは第36回(旧カリキュラム)時点の受験資格が掲載されており、第37回以降の受験資格については明記されていません。

その中で、過去に受験資格を得ている方について以下の記載があります。

過去に次のいずれかで受験資格を得ている方は、カリキュラムの改正問わず受験することができます。改めて現行のカリキュラム(実習科目含む)を履修する必要はありません。

[社会福祉士国家試験]受験資格(資格取得ルート図):福祉系大学等:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター

そのことから、過去に受験資格を得ている方については第37回以降の試験についても大きな影響はないと予想されますが、今後受験予定の方は都度最新情報を確認するようにしましょう。

社会福祉士国家試験の受験資格や対象者については下記コラムでも詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。

社会福祉士の新カリキュラムでの実習免除の条件は?

社会福祉士の新カリキュラムでは、以下の条件を満たす方については実習の一部が免除となります。

  • 介護福祉士・精神保健福祉士の資格を持つ方(履修中も含む)
  • 精神保健福祉士の資格を持つ方
  • 精神保健福祉士養成課程において、ソーシャルワーク実習を履修している方
  • 介護福祉士養成課程において、介護実習を履修している方

それぞれの免除内容は以下の通りです。

介護福祉士・精神保健福祉士の資格を持つ方(履修中も含む) ・60時間を上限として、社会福祉士養成課程の実習を免除可能
精神保健福祉士の資格を持つ方 ・60時間を上限として、社会福祉士養成課程の実習を免除可能
・30時間を上限として、ソーシャルワーク実習を免除可能
精神保健福祉士養成課程において、ソーシャルワーク実習を履修している方 ・60時間を上限として、ソーシャルワーク実習(240時間)を免除可能
※ただし、180時間以上の実習を機能の異なる実習施設において行うこと
介護福祉士養成課程において、介護実習を履修している方

また、見直し前のカリキュラムから引き続き、「厚生労働省が定めた指定施設で1年以上の相談援助員としての実務経験がある方」も実習科目の免除対象となります。

社会福祉士の新カリキュラムについてまとめ

社会福祉士の新カリキュラムでは、指定/基礎科目の必修化や特定科目の時間数の拡充など、より実践力が高められる学習内容に改定されました。

その結果、カリキュラム全体の総科目数が一般養成施設では23科目に、短期養成施設では7科目に増加しています。

また、地域社会の福祉ニーズに対応できる知識・実践力の養成のために、実習施設範囲の拡充も行われ、これまで対象施設に含まれていなかった地域生活支援センター・教育機関等も加わりました。

こうした科目数や実習範囲の拡充により、養成カリキュラムや実習・演習の学習内容がさらに充実しました。

これまで以上に福祉の現場で活躍できる実践力が高められ、社会福祉士の活躍の幅が広がることでしょう。

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橋口 貴俊 講師

この記事の監修者 橋口 貴俊 講師

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地元の都道府県社会福祉協議会で働く。
地域福祉の推進のため、県域における福祉人材の確保・育成・定着に関する業務に携わっている。

社会福祉士としての専門性を高めるため、社労士と行政書士の試験に、働きながら独学で合格する。
社会人のための効率の良い学習方法を追究した結果、80日の短期間で、難関と言われる行政書士試験の一発合格に至る。

受験生がつまずきやすい社会保障制度や法律について、社労士試験などで培った専門性を発揮し、合格に必要な知識だけに絞った分かりやすい講義を得意としている。