本稿では財務専門官の仕事内容、待遇、試験内容、試験対策など、財務専門官に関して広く解説します。

財務専門官は、財務省の出先機関である財務局や財務支局を中心に勤務する国家公務員です。

ぜひ本稿を参考にして財務専門官にチャレンジしてください。

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財務専門官とは

財務専門官とは、“地域に貢献する財政・金融のプロフェッショナル”国家公務員専門職のひとつです。

※かつては主に国家Ⅱ種(現在の国家一般職)試験から財務局職員を採用していましたが、平成24年度以降は「財務専門官」として独立した採用試験となりました。

霞ヶ関にある財務省本省を「本社」に例えるなら、「地方支店・支社」に該当する全国10の財務局・財務支局及び沖縄総合事務局財務部において、財政、国有財産、金融等に関する施策を地域の特性を踏まえて実施するとともに、財務省・金融庁の重要施策等を広報し、地域の意見・要望や地域経済の動向を財務省・金融庁に的確かつ迅速に伝達することで、地域に貢献する仕事をしています。

財務専門官の業務内容

財務専門官の業務は大きく5つの分野があります。

財政

国の予算を適正かつ効率的に執行するための調査や情報収集、災害によって公共施設など被災した場合に早期復旧するための災害査定立会、地方公共団体が学校・病院等の生活関連施設の整備に資金が必要な場合に、貸付を実施します。

例えば、近年九州では豪雨災害による土砂災害、氾濫、浸水などが発生し、公共施設や農地、農業施設など多くの施設が被害を受けました。

早期復旧をおこなうために災害査定立会を実施しました。

国有財産

国有財産の有効活用のための調整業務や、地域や社会のニーズに対応するように国有財産を積極的に活用したり、地方公共団体と国の政策を連携させて地域の「まちづくり」に貢献しています。

例えば、東日本大震災の際に国の宿舎等を無償で被災者に貸与しました。

金融

預金者や保険契約者等を保護するために地域金融機関等を検査・監督したり、地域の中小企業へきめ細やかな対応をするよう金融機関を促したりして、地域の金融に貢献しています。

経済調査

地域の経済動向の現状や先行きに係る調査・分析結果を地域へ情報提供するとともに、財務省本省に報告しています。

また、財政政策等の企画立案に役立てるため、企業・経済団体・地方公共団体等へのヒアリングで得た意見・要望などを本省庁への伝達業務も担当しています。

このような仕事内容が、政府の「月例経済報告」など経済・財政政策立案の基礎資料や、四半期別GDP推計に活用されています。

広報相談

中央と地域の橋渡し役として企業経営者から主婦層・若年層まで多種多様な層に向けて財務省や金融庁の重要施策等に係る広報活動を展開しています。

経済・財政・金融・国有財産等に関する説明会や、地域住民からの各種相談対応も実施しています。

例えば、地域の各種団体や大学等からの依頼に応じ、無料で講師派遣をしたり、多重債務者からの各種相談対応(借入状況の聴取、債務整理方法の提案、法律専門家等の紹介)を行うこともあります。

国税専門官と財務専門官の違い

財務専門官が「財政・金融のプロフェショナル」であると述べましたが、国税専門官は「税務のスペシャリスト」と言えるでしょう。

財務専門官は先述のとおり、財務省と地域の橋渡しとして、金融や財政に関する業務を行っています。

国税調査官は、国税局や税務署において税務調査や滞納処分などを行っています。

財務専門官同様に財務省に属する国家公務員には、国税専門官という専門職があります。

採用試験の科目は共通している部分もあり採用試験の日程も同じなので、どちらを受験しようか迷う方もいらっしゃるかもしれませんね。

財務専門官の勤務地と転勤

国家公務員というと、全国転勤をイメージしがちですが、財務専門官の転勤の範囲は、基本的には、採用局の管轄と財務省や金融庁のある東京になります。

もっとも、採用局は全国10の財務局・財務支局及び沖縄総合事務局財務部に分かれているだけなので、各財務局の担当エリアは広く、引っ越しを伴う転勤の可能性もあります。

財務専門官のなかには、国際機関で活躍している方や海外の大学院へ留学している方もいます。

採用後には意欲や能力次第で、豊富なチャンスが用意されているといえるでしょう。

財務専門官の待遇

ここでは財務専門官の給与や、福利厚生について解説します。

給与・年収

財務専門官の給料は「行政職俸給表(一)」が適用されます

財務専門官の初任給は1級25俸が適用され、初任給は222,240円です。(地域手当なし:185,200円)

人事院の令和5年度国家公務員給与等実態調査によると、財務専門官の平均給与月額は404,015円、俸給は322,487円で、平均年収は約666万円(約6,666,248円)でした。

残業代やその他手当を含めると金額が変わるため、あくまでも目安としてお考え下さい。

その他にも、ボーナスに相当する期末手当・勤勉手当(約4.5カ月分/年)、扶養手当・通勤手当等の各種手当が規定に基づいて支給されます

※平均給与月額…俸給及び諸手当の合計
※平均年収は平均給与月額×12ヶ月+平均給与月額×4.5ヶ月(ボーナス)で算出
※出典:令和5年度国家公務員給与等実態調査

勤務時間・休暇  

財務専門官の勤務時間は原則として週38時間45分です。

休日は土曜、日曜、祝日法による休日、年末年始(12/29〜1/3)で、このほかに年次休暇(年20日。採用の年は15日)や夏季、結婚等の特別休暇があります。

福利厚生           

国家公務員として、福利厚生面は充実しています

組合員となる国家公務員共済組合では、各種の給付事業(病気・けが等)や福祉事業(医療・貯金等)を行っています。

また、各種研修も大変充実しています

財務専門官になるまでの流れ(2024年度)

財務専門官になるまでの流れやスケジュールについては、以下のようになります。

  1. 【受験案内】:2月1日~(ホームページに掲載)
  2. 【受験申込み】:2月22日~3月25日(インターネットから行う)
  3. 【第1次試験】:5月26日
  4. 【合格発表】:6月18日9:00
  5. 【各財務局業務説明会】
  6. 【第2次試験】:7月1日〜7月4日
  7. 【各財務局職場訪問】 ※予約が必要
  8. 【最終合格発表】:8月13日9:00
  9. 【採用面接】
  10. 【内定】:10月1日以降

※出典:財務専門官採用試験情報参照

次章(第4章)でご紹介するように、財務専門官になるためには財務専門官試験に合格する必要があります。

試験には一次試験(筆記試験)・二次試験(人物試験)がありますが、最終合格=採用ではありません。

財務専門官として採用されるには、最終合格後に志望する財務局(全国に9の財務局と1つの財務支局があります)が実施する採用面接を受けて「採用内定」をもらう必要があります。

各試験対策の詳細については第6章を参照ください。

財務専門官の採用試験制度・試験科目

この章では、財務専門官試験制度や試験科目について解説していきます。

試験概要

財務専門官試験は「大卒程度試験」ひとつしかありません

国家公務員試験には「大卒程度試験」、「院卒者試験」、「高卒者試験」などの試験区分があるのが一般的です。

財務専門官試験と一般的な国家公務員試験の、大きく異なる点といえるでしょう。

受験資格

基本的に年齢制限:「22〜30歳まで(受験翌年4月1日時点の年齢)」だけで、学歴制限はありません

「大卒程度」とは筆記試験の難易度の目安に過ぎず、高卒・中卒でも受験できますし、しっかりと試験対策さえすれば大卒でなくとも合格は可能です。

試験内容

試験内容は下記の通りとなっています。

  試験科目 解答数
解答時間
配点比率 内容
一次試験 基礎能力試験
(五肢択一)
40題
2時間20分
2/9


・知能分野27題
(文章理解11題、判断推理8題、数的推理5題、資料解釈3題)
知識分野13題(自然・人文・社会13題(時事を含む))

専門試験
(五肢択一)
40題
2時間20分
3/9


・必須問題
2科目(28題)
憲法・行政法、経済学・財政学・経済事情
・選択問題:8科目48題(各6題)から2科目を選択し(計12題解答)
民法・商法、統計学、政治学・社会学、会計学(簿記を含む。)、経営学、英語、情報数学、情報工学

専門試験
(記述式)
1題
1時間20分
2/9(注)


5科目(各1題)のうち1科目選択
憲法、民法、経済学、財政学、会計学

二次試験 人物試験   2/9 人柄、対人的能力などについての個別面接
(参考として性格検査を実施)

(注) 第1次試験の合格は基礎能力試験及び専門試験(多肢選択式)の結果によって決定する。専門試験(記述式)は第1次試験合格者を対象として評定した上で、最終合格者の決定に反映する。

最終合格者は1次試験と2次試験をすべて総合して決定されます。

基礎能力試験、専門試験(多肢選択式と記述式)の配点合計は7/9です。

筆記試験のウェイト、特に専門試験(五肢択一)が高いことがわかります。

財務専門官の倍率・難易度・ボーダー【2024年】

財務専門官の倍率や難易度を、表を使って解説してみましょう。

■財務専門官試験の倍率(人)

年度申込者受験者一次合格者最終合格者最終倍率
令和6年2,4221,2779375272.4倍
令和5年2,9861,5839965602.8倍
令和4年2,5011,3821,0776322.1倍
令和3年2,5031,4499665972.4倍

財務専門官の倍率は、令和6年度が2.4倍となっており、公務員試験全般の倍率と比べると低い数字と言えます。

ですが、倍率が高い=難易度が高い、倍率が低い=難易度が低いと言い切れないのが公務員試験です。

下記表で、国税専門官の倍率と比較してみます。

■国税専門官の倍率(人)

年度申込者受験者一次合格者最終合格者最終倍率
令和6年(A)11,7618,3215,7044,6733.6倍
令和5年14,0939,8185,7293,2743.0倍
令和4年14,86711,0987,2834,1062.7倍
令和3年13,1639,7337,4154,1932.3倍

財務専門官は専門性が高く受験者のレベルも高いとされています。

同じ日に一次試験が行われ、受験者数も採用予定人数も財務専門官よりも多い国税専門官よりも難易度は高いと考えていいでしょう。

とはいえ、いわゆるボーダーライン(筆記試験合格に必要な最低ライン)は、専門・教養ともに6割くらいで、決して高くはありません。

なぜなら試験科目が多くて範囲も広いし、なによりも準備不足の受験生が多いからです。

また、採用面接で「採用内定」をもらうためには、筆記試験で高得点を取って上位合格を目指すべきだと言われることがありますが、あまり信憑性はありません。

なぜなら、最終合格前の「職場訪問」で内々定を採る受験生がいるからです。

つまり一次試験で不合格にならなければ面接重視・人物本位で「内定」をもらえる可能性が非常に高いということです。

本気で財務専門官を目指すのであれば

  1.  国家一般職や地方上級レベルの勉強
  2.  足切りされない程度の専門記述対策
  3.  早めの面接対策

この3点が重要ポイントと言えます。

※①〜③の詳細は次章(第6章)で解説します。

女性の合格者について

財務専門官の2024年の女性合格者割合は44.6%でした。

同年4月1日付けの内閣人事局発表によると、国家公務員採用試験全体の女性採用者割合が39.2%だったので、比較的多いといえます。

財務専門官の仕事はどの分野をとっても内容に男女の差異はなく、地域金融機関の検査・監督や国有財産の管理・活用等の業務に従事します。

財務省・金融庁で活躍している女性も多数います。

また、仕事と子育て等の両立を支援する制度としては、「育児休業」や「産前・産後休暇」、「育児短時間勤務」等の制度がありますが、財務局では「財務局女性職員活躍とワークライフバランス推進のための取組計画」を独自に策定し、こうした制度を取得しやすい職場環境の整備に取り組んでいます。なお、「財務局女性職員活躍とワークライフバランス推進のための取組計画」の概要も参考になさってください。

財務専門官の試験対策

前章で触れた、財務専門官を目指すうえで重要な公務員試験のポイントを詳しく解説していきます。

一次試験

筆記試験の難易度は国家一般職・地方上級と同程度です。

併願される方は、他の職種と共通する科目を優先的に学習されることをお勧めします。

基礎能力試験

財務専門官の基礎能力試験は40問出題され、配点は2/9です。

基礎能力試験は一般知能と一般知識に分かれます。

【一般知能】 文章理解(現代文/英文)、数的処理(判断推理/数的推理/資料解釈)

【一般知識】 時事、社会科学(法律/政治/経済)、自然科学(物理/化学/生物/地学)、人文科学(日本史/世界史/地理/思想)

他の国家公務員試験同様、出題数は一般知能、特に数的処理が圧倒的に多いので、先ずは数的処理から学習しましょう。

数的処理の学習はまとめて集中するよりも、少しずつでもいいので毎日コツコツと続けることが重要です。

一般知能分野は、ほぼ全ての公務員試験で出題されますし、職種による出題傾向の大きな違いはありません。

したがって、公務員を目指す方は得意分野にすることで大きなアドバンテージになります。

一般知識は全ての科目を学習するのは非常に効率が悪いので、一般知識で得点できない分を補いかつ得意科目(大学入試で勉強した科目など)に絞って対策をしましょう。

専門試験(五肢択一式)

財務専門官の専門試験は40問出題され、配点は3/9です。

「憲法/行政法」「経済学/財政学/経済事情」の合計28問が必須回答。

加えて、8科目48問(1科目はすべて6問出題)のなかから、2科目12問を選択回答です。

「憲法/行政法」の内訳は憲法8問、行政法6問です。

いずれの科目も全体から満遍なく出題される傾向にあります。

ですが、ほとんどの問題が過去問の基本的な知識で解けるものばかりですので、しっかりと過去問をやっておけばほぼ満点がねらえます。

公務員試験の鉄則は「落ちない勉強」「他の受験生ができるところを取りこぼさない」です。

難易度の低い憲法/行政法は取りこぼしのないように対策すべきです。

「経済学/財政学/経済事情」の内訳は経済学6問、財政学6問、経済事情2問です。

経済学の難易度は標準程度で、計算問題も過去問で解法パターンをマスターしておけばで正解できます。

財政学は比較的出題数が多い上に基本レベルの問題が多いので、得点源にしましょう。

経済事情は「時事対策」に尽きます。受験年度の2月以降に時事対策本が出回った頃に対策すれば十分です。

その他の選択科目に関しては、併願先との重なる科目を中心に選択して過去問を中心に学習しておきましょう。

専門記述

財務専門官の専門試験(記述式)の配点は2/9で、基礎能力試験の配点と同じです。

国家一般職や地方上級試験にない試験形式なので戸惑う方が多いのが専門記述対策です。

1時間20分の試験時間で1題の答案を作成します。

問題文の内容を正しく理解し、必要な論点を適切な順番で構成し、制限時間内に論述しなければいけませんが、最低限の知識と文章作法を学ぶことで十分に対応できます。

出題される範囲は、択一試験の方が幅広いので、まずは択一対策で基礎知識を身につけて、後は専門記述の書き方のコツを参考書にある参考答案などでマスターしましょう。

二次試験(人物試験)

人物試験とは面接のことで、配点は2/9で基礎能力試験や専門試験(記述式)と同じ配点です。

他の公務員試験と同じく面接重視・人物本位なのは財務専門官も同様です。

面接試験前に、面接カード(民間企業でいうエントリーシートのようなもの)配られ、面接時に持参するのが一般的です。

人物試験は提出されたカードにそって進行することが多いので、面接カードの準備には注意を払いましょう。

採用面接

最終合格=採用ではありません。次に迎え撃つのは、採用面接です。

本気で財務専門官になりたければ、面接対策をしっかりして「内定が出されれば辞退しない」意思をしっかり伝えることが重要だということです。

採用面接対策ポイント①「業務説明会」「インターンシップ」に参加するようにする

各財務局では様々な時期に業務説明会やインターンシップが実施されます。

参加しなかったらといって決して採用されないわけではありませんが、情報収集やミスマッチを防ぐためにも参加されることをおススメします。

採用面接対策ポイント②「併願状況」「志望動機」などの質問にしっかり答える

採用担当者にとって、せっかく内定を出しても採用辞退をされると困ります。

「併願状況」や「志望動機」を聞くことによって、採用の意思を知りたいのです。

また、仮に採用されても短期間で退職されることもできる限り避けたいところです。

財務局の管轄エリアは広く、財務専門官は転勤がよくあるので、この点を理由に退職されることがないか確認する意図があるといえるでしょう。

いずれの質問に対しても、採用されれば働く意思をしっかり伝えられるようにしておくことが重要です。

最後に

財務専門官試験に合格後は手厚い研修が用意されているので、目指す時点で財政や金融に精通している必要はありません

ですが、財務専門官は財政と金融のプロとして活躍するわけですから、財政や金融に関心が低い方には不向きな職場と言えます。

逆に、財政や金融に関心があるのであれば、ぜひチャレンジしていただきたい職種です。

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この記事の著者

小林 美也子講師 (講師紹介はこちら


大手資格予備校・地方自治体・企業・教育機関等様々な場所で,長年にわたり公務員試験,宅建試験の受験指導,職員研修を行う。

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