保育士試験は科目数が多く、各科目の学習範囲も広いので、計画を立てて効率的に学習を進めることが大切です。

「どの科目から勉強すべき?」「難しい科目、簡単な科目を知りたい」などのお悩みや疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

このコラムでは保育士試験の筆記試験9科目の内容や、ニコイチ科目、難しいとされる科目について解説しています。勉強を進める順番などについても紹介していますので、是非参考にしてください。

保育士筆記試験の9科目とは

保育士筆記試験の科目は、次の9つです。

  1. 保育原理
  2. 教育原理
  3. 社会的養護
  4. 子ども家庭福祉
  5. 社会福祉
  6. 保育の心理学
  7. 子どもの保健
  8. 子どもの食と栄養
  9. 保育実習理論

保育士試験では9科目の筆記試験にすべて合格しないと、実技試験に進めません。

筆記試験では、保育士として児童を保育し、保護者に保育の指導を行うための能力を測ります。年代別の心身の発達などの保育の専門知識だけではなく、社会福祉の法律や保護者・自治体との連携についての知識も求められます。

配点は教育原理・社会的養護以外の科目が100点満点、教育原理・社会的養護は各50点満点となります。

各科目60点以上が合格で、科目ごとの合格が認められます。ただし教育原理・社会的養護は両方とも30点以上をとらないと合格できず、どちらか一方のみの合格はありません。

試験形式はマークシートの5択で、記述式問題はありません。一問一答形式の問題よりも、語句の組み合わせを選ぶ問題が多く、知識だけではなく読解力・思考力も試されます。

また保育士試験では科目免除制度があります。以前の合格科目や、取得している免許・資格によって一部科目の試験が免除される制度なので、受験申請する前に確認しましょう。

筆記試験9科目の出題範囲については、それぞれ以下の通りです。

1. 保育原理

保育の意義・保育に関する法令・保育の各国の思想と歴史・障害児保育の理解など、保育の根本的な意義・目的について問われます。保育士の行う子育て支援の職員同士・保護者・自治体との連携について、その現状についても理解が求められます。

2. 教育原理

教育の意義・目的や子ども家庭福祉との関連性など、教育の基本法則について出題されます。日本と諸外国の教育の思想・歴史・制度や、生涯学習社会の教育の在り方などの教育課題についての知識が問われます。

3. 社会的養護

社会的養護の意義や基本原則、社会における制度・法体系についての理解が必要。社会的養護の対象・形態・専門職の知識と現代社会が抱える課題についても知っておく必要があります。

4. 子ども家庭福祉

子ども家庭福祉の理念・概念、そして現代に至るまでの歴史的変遷について問われます。子ども家庭福祉の制度・法律の知識、少子化支援・貧困家庭などへの対応法なども覚えておきましょう。

5. 社会福祉

子ども以外の高齢者・障害者を含んだ福祉全般の知識が求められます。社会福祉の法律・行財政・専門職についての理解と、日本が抱える社会福祉の課題と諸外国の動向を知っておく必要があります。

6. 保育の心理学

子どもの発達を理解する意義や、社会的情動・身体的機能・認知などの観点からの発達過程について問われます。成長に応じた学びを与えるための専門知識を覚えておきましょう。

7. 子どもの保健

子どもの心身の健康のための保健活動の意義と目的について出題されます。健康状態の観察・保護者との情報共有・疾病時の対応法など、保育の現場で必須となる知識が求められます。

8. 子どもの食と栄養

子どもの心身の健全な発達につながる、適切な食生活や食育環境つくりを知っておく必要があります。また体調不良・アレルギー・障害のある子への対応も試されます。

9. 保育実習理論

子どもの心身の発達・取り巻く環境や、保育児保育指針に示される保育の内容を踏まえた上で、子どもの感性を育てるための遊び・遊具・教材などの知識を問われます。音楽・教育論・美術・工作など幅広い内容から、出題されます。保育の基本から展開された、多様な保育形態についても勉強しておく必要があります。

保育士筆記試験の日程別の科目

保育士試験の筆記試験は年に2回、例年4月(前期)と10月(後期)に実施されています。9教科を2日間にわたって行います。全科目マークシート選択式です。

2023年保育士試験での日程別の試験科目は以下の通りでした。

科目試験時間満点
試験1日目保育の心理学60分100
保育原理60分100
子ども家庭福祉60分100
社会福祉60分100
試験2日目教育原理30分50
社会的養護30分50
子どもの保健60分100
子どもの食と栄養60分100
保育実習理論60分100

教育原理・社会的養護を除く全科目が、問題数20問・試験時間60分となります。各科目100点満点中60点以上で合格です。

教育原理・社会的養護を除く科目は、科目ごとの合格が認められます。合格はその年を含めた3年間有効となり、次回以降の試験では免除が可能です。

教育原理・社会的養護は、問題数10問・試験時間が30分で、50点満点となります。こちらはそれぞれ30点以上とることで合格です。

1日目に4科目、2日目に5科目の実施ですが、教育原理と社会的養護は試験時間が30分、問題数も10問なので、試験時間としては両日同じとなります。

保育士試験の日程や時間割については、以下コラムで解説していますので参考にしてください。

関連コラム:保育士試験の概要|日程・時間割・申し込み方法も解説

保育士試験のニコイチ科目とは?受からないと言われる理由は?

筆記試験でニコイチ科目とも呼ばれている教育原理と社会的養護です。ニコイチと呼ばれる理由は、合格するには2科目とも30点以上とる必要があるからです。

どちらか一方が30点以上でも、もう片方が30点未満であれば、不合格となります。

ニコイチ科目が受からないと言われる理由は以下の3つが考えられます。

  1. どちらの科目も30点以上得点する必要がある
  2. 10問中4問までしか誤答できないという緊張感がある
  3. 法令や子ども家庭庁・厚生労働省の資料を理解・暗記する必要がある

下記で解説します。

1. どちらの科目も30点以上得点する必要がある

以下の例のように、2科目同時合格でのみ合格と認められます。

例:
教育原理30点・社会的養護30点(合計点60点)→合格
教育原理45点・社会的養護25点(合計点70点)→不合格

片方の科目が合格していても、もう一方が不合格であれば、次の試験も社会原理・社会的養護の両科目を受け直さなくてはなりません。

2. 10問中4問までしか誤答できないという緊張感がある

ニコイチ科目以外は、20問中8問までは不正解があっても合格できますが、ニコイチ科目は10問の出題なので、4問までしか誤答できません。このプレッシャーが焦りとなる人は多いようです。

3. 法令や子ども家庭庁・厚生労働省の資料を理解・暗記する必要がある

教育原理は、法令・教育思想・教育と社会動向の関わりなど、教育者としての基礎知識が求められます。社会的養護は社会における社会的養護の意義・役割について問われます。

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」「児童養護施設運営指針」などの資料から頻出されるため、法律や教育史などに苦手意識がある人は覚えることが苦痛かもしれません。

保育士試験の難しい科目は?

保育士試験で難易度が高いといわれる科目はニコイチ科目の「教育原理」「社会的養護」と「社会福祉」です。

この3科目は、例年受験者から難しいと言われている科目となっており、受験者から難易度が高いと感じられることが多いようです。

保育士試験9教科を難しいとされる順に並べると下表のようになります。

難易度科目
教育原理
社会的養護
社会福祉
やや難子どもの食と栄養
標準~易しい保育原理
子ども家庭福祉
保育の心理学
子どもの保健
保育実習理論

教育原理・社会的養護・社会福祉が難しいとされる理由は以下のように考えられます。

保育士試験で教育原理が難しいとされる理由

先にも述べた通り、ニコイチ科目で出題数10問の科目なので、プレッシャーを感じる人が多いです。

また、試験では教育の基本原則や教育法規・行政についての知識を問われます。憲法・幼稚園教育要綱・日本と諸外国の教育の歴史・教育関連の時事情報などを幅広く、確実に頭に入れておく必要があるため、苦手や学習漏れが出やすい科目です。

保育士試験で社会的養護が難しいとされる理由

教育原理と同じくニコイチ科目と出題数によるプレッシャーを感じやすいでしょう。

児童福祉法・児童養護施設運営指針などのような、法律や公的資料を繰り返し読み、主旨や頻出事項を覚えこむことが必要なことも、難しいとされる理由の一つです。

幅広い範囲から10問の出題なので、弱点を作らないようバランスよく学びましょう。

保育士試験で社会福祉が難しいとされる理由

福祉関係の事業名・機関名・社会福祉六法を幅広く、かつ要点を押さえて理解しなくてはなりません。

施設と事業を結びつける問題、法律の詳細を問われる問題など、暗記だけでは対応できない問題が出題されるため、おのずと難易度が上がります。

保育士試験の簡単な科目は?

保育士試験で比較的簡単といわれているのは、保育原理・子どもの保健・保育実習理論です。

まず保育原理ですが、保育所保育指針から出題比率が高く、これを完璧に押さえておけば確実に点が取れることから、取り組みやすいとされているようです。その他には教育の歴史(教育思想など)・事例などが出題されます。

子どもの保健は、子育て経験のある人、身近に小さい子がいる人は頭に入れやすい学習内容です。子どもの成長や発達をサポートするために必要な知識を試されます。

子どもの成長過程・疾病への対応など、保育現場で必須となることばかりなので、イメージしながら学べるため、記憶に残りやすいでしょう。

そして保育自習理論ですが、この科目も保育現場で実践するイメージがしやすく、取り組みやすい内容です。

音楽・美術・工作の基礎知識、保育環境の整え方などから出題されます。保育所保育指針からの出題も多いようです。

保育士試験の科目別の合格率は?

保育士試験の科目別の合格率は公開されていません。

厚生労働省の「保育士試験の受験者・合格者の推移」で、平成17年から平成26年までの筆記試験の合格率は公開されています。

そのうち、最も合格率が低かったのは平成22年の12.9%、最も高かったのは平成19年の25.8%でした。

上記10年間の筆記試験の平均合格率は18.09%。実技試験の平均合格率が82.45%であることと比較すると、筆記試験の難易度は高いといえるでしょう。

保育士試験の科目、勉強する順番は?

保育士筆記試験の対策にあたって勉強する順番ですが、絶対にこの科目から始めなければいけない、というものはありません。

習熟度、得意不得意などによって、始めやすい教科は人それぞれです。基本的に自分が学びやすい科目からスタートとするのが良いでしょう。それを踏まえて、順番の決め方を2通り紹介します。

  • 分野ごとにまとめて学習を進める
  • 保育の基本理念から学びたいなら「保育原理」から

それぞれ解説していきます。

分野ごとにまとめて学習を進める

例えば子どもの心身の健康・栄養を学ぶ分野である3科目「保育の心理学」「子どもの保健」「子どもの食と栄養」をスタート科目として決めて、この3科目を任意の順番で勉強します。

この3科目が終わったら、次は福祉分野3科目「児童家庭福祉」「社会福祉」「保育実習理論」に進むといった形で、分野ごとにまとめることで、理解が深まります。

保育の基本理念から学びたいなら「保育原理」から

保育士として知っておくべき保育の基本理念、保育に関わる法令・条約、保育の歴史・偉人などを学ぶ科目です。

筆記試験の複数科目で頻出する保育所保育指針をはじめとする法令・条約の知識を先に入れておくことで、他科目の勉強も進めやすくなるでしょう。

保育士試験の科目についてまとめ

保育士試験の筆記試験9科目の試験時間・問題数・配点は以下の通りです。

科目名試験時間/問題数/配点(合格点)
教育原理30分/10問/50点(30点以上)
社会的養護
社会福祉60分/20問/100点(60点以上)
子どもの食と栄養
保育原理
保育の心理学
子どもの保健
子ども家庭福祉
保育実習理論

ニコイチ科目と呼ばれる教育原理・社会的養護は片方だけの合格が認められないので、どちらか一方が30点以上でも、もう片方が30点未満であれば、次回も2科目受け直しとなります。他の教科のように科目ごとの合格は認められないことも、難易度を高めています。

保育士筆記試験の近年の合格率は20%前後で推移しています。合格率が80%を超える年もある実技試験と比較すると、筆記試験の難易度は高めといえます。

科目によっても難易度に差はありますが、自分の興味のある分野からスタートすると、法令・規則などが覚えやすいでしょう。