今回は行政書士法人第一綜合事務所の代表をされている、若松直様に特別インタビューを行いました。

ビザ申請・帰化申請など、国際業務に専門特化している行政書士法人です。

行政書士事務所として独立された経緯から、事務所の経営や採用、行政書士業界の将来性など詳しくご回答いただいています。

これから行政書士を目指す方は、ぜひ参考になさってください。

改めて行政書士法人第一綜合事務所について教えてください

弊社は2010年に開業した行政書士法人で、開業当初は個人事業でやっていましたが、2013年に法人化しました。

現在は東京、大阪で総勢50名が働いています。(2024年10月時点)

行政書士業界の中では規模感のある事務所と言われることも増えてきましたが、開業当初は行政書士で身を立てることができるか不安に思いながらのスタートでした。

2010年に大阪で第一綜合事務所を創業されていますが、なぜ独立しようと思われたのですか?

当時は「働きながら学ばせてもらう」という世界観で薄給の事務所しかありませんでした。

月給14万円で社会保険なしといったようなレベルです。

また、そもそも行政書士の募集もかなり少なかったので、行政書士は「やめるか」「独立開業か」というふたつの選択肢しかありませんでした。

「金なしコネなし実務経験なし」といった状態で、不安がなかったわけではありませんが、「やるしかない!」と思い、創業に至りました。

独立された当初どのような場面で苦労されましたか?

営業ですね。

実務知識がなくて不安というのはわかりますが、試験に合格して開業している方なら、役所で聞きまわってなんとか形にするマインドは持っているかと思います。

ですが、お客さんが来ないのはどうしようもないです。

気持ちだけではなんともならないので、考え方を変えないとこの点は苦労すると思います。

当時、行政書士業界の先輩の話を聞いていると、「今月は良かった」「ダメだった」と場当たり的に月ベースで見ていた方が多い印象でした。

そのため、私はマーケティングを勉強して「集客の仕組み」を作ることから始めました。

しかし、始めから上手くいったわけではありません。

当時は売上の半分をプロモーションに使ったり、本当にいろいろと試しました。

勉強代は高くつきましたが、反響を取れるプロモーションは何か、ということを知ることもできましたし、現在は集客の仕組みを作ることができたと思っています。

行政書士を組織化して良かったことは?

組織の行政書士の良いところは、絶対に自分ひとりではできないことを実現できていることです。

弊社の例でいうとBtoBであれば、高級ホテルの外国人雇用の管理一式を任されたり、大学等の教育機関、行政機関からの相談、海外の大企業の日本進出サポート、海外の芸能人やスポーツ選手のビザ対応など、多岐にわたる分野を受け持っています。

経営的な視点としては、多岐にわたる業務を部署分けすることによって事務所として総合的に強くなる点も良いと考えています。

国際業務の面白いところは?

国際業務の面白いところは、BtoBであれば幅広い仕事に関わることができること、BtoCであれば、「家族が離れ離れになりそう」「国籍を変えるかずっと悩んでいた」「差別を受けていた」といった方の思いにも寄り添うことができるところです。

やはり多岐にわたる仕事がある、ということが国際業務の面白みだと思います。

本当に幅が広いですから(笑)

業務特化した事務所が多いように見受けられますが、業界では一般的なのでしょうか?

考え方は、都市部と地方部で異なると思います。

都市部であれば業務特化でもやっていけますが、地方部はある程度の幅をもってやれないと厳しいでしょうね。

実は、開業当時本当にやりたかったのは建設だったんです。

行政書士といえば建設という認識があったので。

ですが、すでにポピュラーな分野でしたので、新参で入るのは難しいと知りました。

それで、国際はまだ新興分野でマーケティングもまだ洗練されていない、これからシェアを取っていけると気づき、今に至ります。

今でも狙い目のジャンルはありますか?

ありますね。

やはり行政手続きなので、時代の変化によっても変わっていきます。

これまでなかった手続きが出てきたりもします。

例えば、最近はドローンの分野や、これまでもあった相続の分野でも、社会的ニーズに変化があり、行政書士の役割は拡大していると聞いています。

行政書士の仕事は時代の変化と一緒に動いていく感じなので、面白い「資格」だと思っています。

国際業務の中でも時代の潮流をみていないとダメなので、今も面白い資格だと思っています。

飽きないです。

士業事務所の経営について教えてください

私は士業事務所の経営で重要なのは、「マーケティング」と「マネジメント」だと考えています。

マーケティングは、ひとつのマーケティングツールに頼りきりになると、それがダメになってしまうと非常にリスクが高くなってしまいます。

そこでポートフォリオを組んで予算あてをし、セグメントを見て効果的な戦略を立てています。

マネジメントは、ピラミッドをつくることに注力しています。

特にコミュニケーションの肝となる意思伝達を重視しており、私(代表)→幹部→課員へと意思伝達され、皆が同じ方向を向いて進んでいけるような体制作りを目指しています。

皆が同じ方向を向くための施策を例にあげると、幹部との目線合わせのため、1泊2日の経営合宿を年2回実施しています。

マネージャー以上の幹部と、その場で予算、採用・教育計画、営業戦略などを全部決めています。

例えば、「採用も欠員が出たから募集しよう」ではなく、毎年1月の段階で採用計画がすでに決まっています。

合宿の前には55分間の会議を13回実施しました。

それくらいしないと目線が合いません。

2019年から経営合宿を実施しており、いまはこの形がしっくりきています。

マネジメント業務の難しいところ、気をつけていることはどのような点ですか?

これは私が未熟だったのですが、マネジメントに私自身の感情が乗りすぎてしまっていました。

「こんな人材になってほしい」「これができる人材にしよう」と。

しかし、それは上手くいきませんでした。

そこで、私自身の感情は一切排除した上で、マネジメントの目的、原点に回帰することにしました。

仕組みで昇格できるようにしたり、私の発言権は必要なところ以外は自身ですべて除外して、オートマチックに物事が進む意思伝達の経路を作ることを優先しました。

以前はどうしても気になって「なぜそのやり方なのか」と口を出したくなることもありましたが、いまは幹部に任せています。

私は社内のグループチャットで発信できないようになっています。

うるさいので閲覧だけの権限にされています(笑)。

現在はメンバーが活躍できる土壌をつくることに振り切り、自立できる組織を目指しています。

第一綜合事務所ではどんな人を採用したいとお考えですか?

様々な視点があるのですが、その中でも「人間性」を一番重視しています。

明確な目標がある人、「どうなりたい」があって、実現するために素直さ、成長意欲が高い人を求めています。

士業事務所の面接に来る方は、資格試験に合格するとそれがゴールになってしまうのか、それまでの経験を無にし、「資格、受かりました」というスケルトンな状態で来る方が多いんです。

面接で「何を実現したいですか」と質問すると、社会人としてキャリアを積んできた方でも答えられないケースが多々あります。

普通の事業会社だとあまりないことではないでしょうか。

面接では、 応募者の夢をお伺いする一方で、弊社のやりたいことを熱く語って、それにオン・ボーディングしてくれるかという点を重視しています。

事務所のゴール、目指すところはありますか?

企業理念である「すべては笑顔のために」をゴールとしています。

そのために、士業事務所というくくりから離れ、国際業務の総合的なカンパニーをつくりたいと思っています。

これまでは「外国人が日本に来る」という目線だけでしたが、日本人が海外に出ていく際のオーダーに対応しきれていません。

また、国際結婚が増えている中、今後増加していくであろう国際相続について、行政書士業界ではほぼノーケアであったりと課題はたくさんあります。

そういった社会課題を現場で、最前線にいる我々が感じ取って、先んじて動いていくべきだと考えています。

国際業務の総合的なカンパニー作りを使命感をもってやりたいです。

若松代表についても教えてください。なぜ士業を目指されたのですか?

最初は予備校のパンフレットに司法書士の平均年収1400万円と書いてあるのを見て、司法書士を目指しました(笑)。

思い叶わず行政書士として働くことになりました。

最初の勤め先で出会った士業業界の師匠に、司法書士試験に落ちて打ちひしがれ、今後どうしようと相談したところ、「これからの時代は資格の種類ではない」と言われ勢いで開業しました。

行政書士に向いている、活躍できるのはどのような方だと思いますか?

あくまで国際業務に限った話にはなりますが、、、

行政書士は専門職なので、インプットし続けることが活躍の必須条件だと思います。

あとは傾聴力です。

百人百様の要望を持つお客様にベストを提案するためです。

その際にも組織力はやっぱり影響しますね。

弊社の場合、組織力を活かして過去案件のデータベースにアクセスできるようにしているので、迷いなくお客様にベストを提案ができるような工夫をしています。

行政書士業界の将来性についてはどう見ていますか?

行政書士が時代とともに変化すれば、ずっと必要とされる仕事だと確信しています。

AIの脅威なんて言われますが、その観点で言うと申請書だけつくりたいという方にとってはその仕事はなくなるかもしれません。

しかし、例えば、労働人口が減り、外国人労働者が増えていけばその管理が必要となります。

ビザ制度がなくなることはないですし、外国人とどうやって働くのか、どう生活するのかというテーマは残り続けます。

「文化の違いがある」「言語の違いがある」という課題は残り続けるので、ニーズは100%なくならないと考えています。

ですので、行政書士という専門家としてアドバイス、コンサルティングをしていくのであれば、ずっと残る仕事だと断言できます。

実務家になると、受け身だと誰も何もしてくれません。

試験に合格して実務家になろうと思った瞬間から場面がコロッと変わるようなイメージです。

是非、能動的に動いてみてください。

資格取得を目指している方へメッセージをお願いします

行政書士には様々な分野で活躍されている人がいます。

ですので、受験生の方には「どこの分野で夢中になれるのか」をまず見つけてほしいです。

そして、自身のやりたい分野に加えて、「どの分野が勝てるか」という目線も持つと良いと思います。

「どの分野をやりたいか」を考えている方はすごく多いのですが、「どの分野が勝てるか」という目線を持っている方って、肌感覚ですが10人に1人もいない印象です。

受験生のときからマーケティング調査はすることができます。

「この分野で自分はこうなる」という姿をもって学習を進めることができれば、行政書士試験合格後も能動的に動きやすいと思います。

私自身は資格をとってからバタバタしてしまったので、今やりなおせるなら、受験勉強のときから将来像を定めるかなと思います。

現在、人手不足で企業の総務も手が足りていない状況です。

そのような視点で見ても、行政書士の需要は更に高まると思っています。

しかし、単なるアウトソーシングではダメです。

単なる手続き屋の領域を超えて、「行政書士に頼んだからこれが実現できた」という存在まで自分達、資格自体を高めていかなければなりません。

一人でも多くの方が、行政書士の業界に興味を持っていただけると嬉しいですね。

この記事の著者 行政書士法人第一綜合事務所 若松直

平成22年9月 行政書士第一綜合事務所を開業
平成25年9月行政書士法人第一綜合事務所の代表社員に就任

国際業務の専門家として、さまざまな団体で理事やアドバイザーを務めるなど、幅広く活動を行っている。

行政書士法人第一綜合事務所