「統計検定1級」は、一般財団法人である統計質保証推進協会が実施している「統計検定」の中で最高位にあたる資格です。

一般にも高く評価されており、データ解析能力を非常に高いレベルで習得していることを証明できます。

受験方式は統計検定4級〜準1級がCBT受験可能であったのに対し、筆記試験のみとなっており、難易度が非常に高いのが特徴です。

この記事では統計検定1級について、試験の概要や学習方法について解説します。

統計検定1級とは?

統計検定は、一般財団法人である統計質保証推進協会が実施している検定で、統計に関する知識や活用力を評価する検定試験です。

統計検定1級は、その中でも最上位に位置する資格となっており、実社会における様々なデータ分析のニーズに応える能力を深く問うものとなっています。

解析ツールの使用やデータ解釈のみにとどまらず、根本となる数理的な知識をもとに最適な統計解析法を選択しモデルを構築できる知識が求められます。

統計検定1級の試験は「統計数理」「統計応用」の2部門で構成されています。

「統計数理」は統計学における数理的な理解を、「統計応用」は統計学を実際の問題に活用する際に考慮すべき事柄に関する理解を問う試験です。

「統計応用」のみ下記4つの分野に別れており、申込時点で1分野を選択します。

合格すると各分野ごとに合格証が発行されるため、その分野に精通した統計解析スキルがあることが証明できます。

  • 人文科学
  • 社会科学
  • 理工学
  • 医薬生物学

統計検定1級の合格には、「統計数理」および「統計応用(1分野以上)」の両方の試験に合格する必要があります。

受験者の年齢分布は準1級同様に20代後半から30代が多くなっており、実務でデータを活用している経験豊富な層が多く受験していることが読み取れます。

参考: 受験者の年齢分布(PBT方式)

統計検定1級は高いレベル・専門性でデータを解析し、問題解決に導く能力を客観的に証明してくれるため、ビジネスでも高く評価される資格です。

転職においても、統計解析エンジニアやデータサイエンティストの求人では「統計検定1級相当の統計知識」を条件としていることが多く見受けられます。

求められる数学知識

統計検定1級の内容を理解するには、大学専門課程レベルの数学知識が必要です。

特に、共通で受験が必要な「統計数理」では統計学に必要な確率分布の導出などの数学的な深い内容が問われます。

微分積分の計算は必須で、かなりの分量を処理する必要があります。

問題の難易度に対し試験時間が短いこともあり、計算の手早さも重要です。

計算問題に対応するためにも、試験範囲を理解し深い知識を身に付けるためにも、微分積分や線形代数といった基礎となる数学を使いこなせる必要があります。

統計検定1級の試験内容

資格 統計検定1級(統計数理) 統計検定1級(統計応用)
受験方法 PBT
(各試験会場での論述形式)
試験日 11月
(申込は例年9月〜10月)
受験料 10,000円(税込)
一方のみ受験の場合:6,000円(税込)
問題数 5問から3問選択 5問から3問選択
試験時間 90分(午前) 90分(午後)
合格点 非公開 非公開
受験資格 なし なし

統計検定4級〜準1級は全国の試験会場のパソコンから受験できるCBT形式の試験であったのに対し、統計検定1級は筆記のPBT試験のみとなっています。

CBT形式の試験がいつでも受験できたのに対し、PBT試験は日程が決まっており、毎年11月にのみ実施されていることに注意が必要です。

計算には四則演算や百分率、平方根の計算ができる電卓を使うことができます(関数電卓は使用不可)。

計算問題は非常に多く、複雑な計算を時間内に処理する必要があるため、使い慣れた電卓を忘れず持参するようにしましょう。

統計検定1級の合格には「統計数理」「統計応用」の両方の試験に合格する必要があります。

もし一方に落ちてしまった場合でも、経過措置として試験合格から10年以内にもう一方の試験に合格することで資格を取得することが可能です。

試験時間は「統計数理」「統計応用」それぞれ90分です。

大問5つから3つを選択して解く形式なので、1問あたりにかけられる時間は30分程度になります。

統計検定1級で出題される問題は複雑な問題が多く、見直しの時間もふまえると試験時間にあまり余裕はありません。

各問題の難易度を見極めることも重要になります。

確実に解ける問題を選択して回答していきましょう。

統計検定1級の難易度・合格率

統計検定1級は難易度が高い試験です。

「統計数理」では統計学の数学的な理論についての深い理解を求められ、「統計応用」では実際の状況に即した統計解析の知識と応用力が問われます。

選択問題ではなく論述が必要な試験であることもあり、統計学の基本がしっかりと身に付いていなければ合格することは難しいでしょう。

合格率は例年20%ほどで、統計検定準1級と同程度、2級の半分程度の合格率となっています。

統計数理

申込者数受験者数合格者数合格率
2023年11月1,35599322322.5%
2022年11月1,36499822422.4%
2021年11月1,18587222525.8%
2019年11月1,28587820223.0%
2018年11月88159212420.9%

統計応用

申込者数受験者数合格者数合格率
2023年11月1,30491821423.3%
2022年11月1,28391118820.6%
2021年11月1,11378918924.0%
2019年11月1,22179312515.8%
2018年11月83354810819.7%

統計検定1級の例題

統計検定1級の「統計数理」「統計応用」では、それぞれ以下のような問題が出題されていました。

例題・統計数理

2021年11月試験問題 

こちらの問題は行列の代数計算が中心の問題です。

公式が活用できるため計算の難易度が比較的易しく、2021年試験の中では解答しやすい問題でした。

ミスによる失点を回避するため、比較的計算量が少ない問題を選択するようなテクニックも重要になります。

例題・統計応用(医薬生物学) 

2021年11月試験問題

上記のような生存時間解析は統計応用で頻出の問題です。

医薬生物学分野に限らず、理工学や人文科学などの分野でも、ユーザーの離脱や機械の故障の発生といった形式でしばしば出題されます。

統計検定1級の勉強法・必要な勉強時間

統計検定1級の合格に必要な勉強時間は、一般的に300時間程度と言われています。

高度な数学に馴染みがある理系出身者や、統計検定2級・準1級を取得している場合でも、さらに深い統計学の理解が必要となるため、一朝一夕で合格することは難しい試験です。

学習を進める上では、特に「確率分布」「統計的推測」を十分に理解し使いこなせることが重要になります。

統計検定1級の勉強方法

統計検定1級では、「統計数理」「統計応用」のいずれの試験でも、「確率分布」「統計的推測」を用いた問題が数多く出題されます。

まずは参考書を用いてこの2単元を十分に理解しましょう。

「確率分布」では、特に期待値、分散、相関係数についての計算問題が多く出題されます。

そのほか、確率計算や変数変換、条件付き分布を絡めた問題も出題されます。

有目にな確率分布については、それぞれの関係を抑え、導出ができるようになっておくことが必要です。

これらの問題は計算量も多いため、実際に問題を解いて電卓の使用にも慣れておきましょう。

また、「統計的推測」では点推定の理論、最尤推定やモーメント法、回帰分析や分散分析などが重要な項目です。

これらの計算が比較的少ない傾向にありますが、論述の証明問題が出題されることも多いので、論理的に理解し記述できる能力が必要になります。

「確率分布」、「統計的推測」について十分に理解ができたら、過去問や演習を用いて試験問題を解くことに慣れましょう。

試験時間は 「統計数理」「統計応用」ともに90 分、大問1問あたり30分と、非常に限られています。

限られた時間内に問題を解ききれるよう、問題数をこなして経験と時間感覚を掴んでいきましょう

おすすめのテキスト・問題集など

以下に、統計検定1級の学習に適した参考書やテキストを紹介します。

現代数理統計学の基礎

出典:Amazon

「現代数理統計学の基礎」は、「新装改訂版 現代数理統計学」と並ぶ統計数理の良書です。

多くの合格者が使用しており、内容の充実度は折り紙付きです。

語りかけてるような読みやすい文体で書かれており、要点を簡潔に理解できるのみでなく、演習問題の量も非常に多く掲載されています。

一部「統計数理」の出題範囲をカバーしきれていない部分があるため補足の学習が必要ですが、まず全体の内容を把握するのに適した一冊です。

新装改訂版 現代数理統計学

出典:Amazon

「新装改訂版 現代数理統計学」は、統計検定1級の内容を意識して執筆された書籍で、特に「統計的推測」分野の学習に向いています。

解説が非常に丁寧で、曖昧な概念についても数式で詳細に解説されている参考書です。

章末問題と解説の量も充実しており、この書籍でしっかりと演習をこなすことで確実に実力をつけることができます。

日本統計学会公式認定 統計検定1級・準1級 公式問題集

出典:Amazon

統計検定の過去問集です。

1冊あたり3年分、計6回分の過去問が掲載されています。一試験120分なので12時間あれば一周できる計算となります。

何周も繰り返し解き、自身の理解度の確認と出題の傾向を掴む用途に使用します。

まとめ

統計検定1級は、深い統計学の知識と応用力を認定する試験です。

統計学を活用する職種において、知名度・評価ともに高く、データの解析に関連するスキルのアピールや自己研鑽に最適です

ぜひ、本記事を参考に統計検定1級資格の取得を目指してみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者 アオミ ソウ

アオミ ソウ

薬学系大学院の修士課程を主席卒業後、大手製薬企業で有機合成・データサイエンス関連業務に従事(専門は生物有機化学)。

現在は研究の傍ら、ライターとして記事の執筆・イラストの制作を行っている。

主な執筆分野はサイエンス(医療、生化学、情報科学)をはじめ、ガジェット、資格など。

保有資格
2018年 危険物取扱者甲種
2021年 データサイエンス数学ストラテジスト(上級)
2021年 応用情報技術者

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