前回に続き、今回は「利害関係人」として「建物滅失登記」を申し出る「建物滅失登記」の申出をおこなった際の作業の流れを紹介していきます。

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登記記録だけが残っている「幽霊建物」

前回、「建物滅失登記の依頼者」は、

①建物の登記記録があること・建物の存在・所有者がわかっている
②対象建物を取壊した、または取壊している事実・その時期がわかっている
③建物を取壊したことで、「滅失登記」の必要があることをわかっている

を理解していることが前提だが、実務では上記の項目が不足する場合がある、と記しました。

③については、滅失登記の必要性を説明すればご理解いただけるので除外します。

①と②が不足する案件の一例として、『既に取り壊されていて現実には存在しないにも係らず、滅失登記がされておらず登記記録だけが残っている建物』があります。

このような建物を弊社では「幽霊建物」と呼んでいます。

この「幽霊建物」という用語が業界全体で通用するものかは不明ですが、この記事の中ではこの用語を使用します。

私が経験したケースは、

「数筆の事業用地を取得した法人から底地の建物滅失登記の依頼を受け、調べたところ底地の一筆に幽霊建物が残っている。登記記録を確認すると、昭和の前半に登記がされている、所有者の住所は現在の住居表示には存在しない町名、建物図面は備え付けられておらず、相続登記もされていない」

というものでした。

法人の担当者に「幽霊建物があります」と伝えると、当然のことながら「その建物も滅失してください」ということになりました。

試験勉強で習いますが、表題部の登記については「申請適格者」が定められており、申請適格の無い者が登記申請をすることはできません。

登記により多少の差はありますが、「表題部所有者、所有権の登記名義人、相続人、一般承継人」というワードは必ず覚えると思います。

上記の依頼では、土地を取得した法人と、登記記録上の建物の所有者との間に、相続または一般承継の関係がないため、この法人が建物滅失登記を申請することはできません。

とはいえ、自分の土地の上に「所有者が不明で現実には存在しない建物」の登記記録だけが残っていては気分も良くないうえ、今後の取引への影響等を考えれば「なんとかその登記記録を閉鎖してください」となるのは当然の話です。

申請適格のない所有者の土地と、その土地を所在地番とする建物の登記記録。

この建物の登記記録を閉鎖するにはどうすればいいのでしょうか。

表題部の登記とは、「不動産の物理的現況を公示する」ものです。

それ故に登記官には現地における実地調査権が与えられ、職権登記が認められています。

「滅失登記は報告的登記であり、不動産の物理的現況を速やかに登記記録に反映させなければならないことを考えれば、現実に建物がもう無い以上職権で滅失の登記できるでしょ?」

なんて考えが頭をよぎります。

前フリが長くなりましたが、上記の依頼に応えるべく次の作業にあたりましたのでご覧ください。

「建物滅失登記」の申出の流れ

 繰返しになりますが、前回の「③建物滅失登記申請」は、「申請適格者」による「登記申請」です。

今回のように、申請適格は無いものの底地の所有者として関係性がある、といった場合は、利害関係人として「建物滅失登記」を申し出る申請ではないことに注意)ことになります。

これが「建物滅失登記」の申出です。

結果として登記官の職権により、存在しない建物の登記記録が閉鎖されます。

以下順に見ていきます。

  1. 資料調査
  2. お客様への説明・登記申出依頼の受託
  3. 現場調査
  4. 申出必要書類の作成・手配
  5. 登記の申出
  6. 登記完了後納品
  7. 領収証作成・送付

1. 資料調査

上記の依頼では元々滅失予定の建物が複数棟あったため、「公図」「地積測量図」「土地登記記録」「建物図面」「建物登記記録」を調査していたところ「幽霊建物」を発見しました。

では幽霊建物を発見するのは滅失登記の依頼時だけなのか、というとそれは違います。

「新築建物の表題登記や既存建物への増築の依頼」など建物について他の依頼を受け、調べたところ幽霊建物が見つかることもありますし、更地を購入したお客様から「土地の分筆」を依頼され、調べたら幽霊建物が残っていた、というようなこともあります。

つまり、土地・建物問わず登記依頼があった時は必ず「依頼の対象土地を確認し、その土地を所在地番とする全ての建物の登記記録を揃えて調査する」のです。

これが我々「土地家屋調査士」の腕の見せ所です。

2. お客様への説明・登記申出依頼の受託

幽霊建物が見つかった場合はすぐにお客様へ説明をし、お客様と幽霊建物の所有者に相

続・一般承継の関係があるのかを確認します。

例えば、

「亡くなった父親が前に建っていた建物を取壊し、昭和50年に今の建物を建て今の建物は父親名義で登記されているが相続登記はされておらず、前の建物も滅失されずに残っている」

といった場合の幽霊建物を滅失するのであれば「相続証明書」と「取壊証明書」(「取壊証明書」が準備できない場合は「上申書」下記参照)を添付した「建物滅失登記申請」となります。

そのような関係がない場合は本件のような「利害関係人」による「建物滅失登記」の申出となります。

見積書を提示し、お客様から申出の依頼を受託します。

3. 現場調査

まずは幽霊建物に記録されている所有者を調べます。

登記記録上の市区町村の役所で登記記録の住所の確認、不在籍証明・不在住証明などを取得し、登記名義人が「いない」ことを確認します。

そして不動産に課税する担当部署(主に市区町村の固定資産税課、東京23区の場合都税事務所)等で登記記録上の建物に税金が課せられているかを調査します。

建物がなければ税金が課されていることはないため、物件証明を申請しても「該当の建物はありません」と返却されます。

また、登記記録上の建物が現場にないかを確認し、写真を撮ります。

さらに現場周囲に登記名義人の相続人や親族等がいないか調査します。

まとめると、登記記録上の建物(幽霊建物)がないこと、所有者がいないこと、相続人・一般承継人がいないことを調査して裏付けをとり、調査報告書にその調査結果を記載します。

余談ですが、実は登記を管轄する法務省と税金の徴収を担当する税務署は、不動産についての情報を完全には共有しておらず、税務署は独自の調査により不動産に課税します。

たとえ申請義務のある新築建物の表題登記をしていなくても、税務署の署員が調査に来て税金を支払うことになりますが、税務署の調査結果が法務局に伝わることはないようです。

4. 申出必要書類の作成・手配

申出についての「委任状」は他の登記申請と同様ですが、本件ならではの必要書類が「上申書」です。

上申書は各社によって書式が異なるかと思いますが、弊社の場合は、幽霊建物の登記記録上の所在、家屋番号、種類、構造、床面積、所有者の住所、氏名を記載し、この建物と底地の所有者である法人についての経緯や関係性を説明する書式です。

申出人である法人には実印で押印のうえ、印鑑証明書を用意してもらいます。

そして実務上求められる「取壊証明書」ですが、いつ取壊されたのか、どの会社が取壊したのかがわからなければ「取壊証明書」も準備できません。

前回の「建物滅失登記申請」で記しましたが、「取壊証明書の有無・手配の可否」の結果、「取壊証明書」を準備できない場合があります。

「解体時期が古くて書類を紛失した場合」や「解体を取り扱ったのが申請人ではない(前所有者だったりすることがあります)ためそもそも書類が無い場合」などです。

そのような時は「上申書」に「取壊証明書」を提出できない上記の事情を記載し、実印での押印と印鑑証明書を添付します。

5. 登記の申出

幽霊建物を管轄する法務局に、委任状・上申書・印鑑証明書・その他の参考資料(役所で取得した書類等)・調査報告書を提出します。

注意点は、「登記申請」とは異なるため、オンラインでの申請ができないことです。

原本書類を直接持ち込むか、遠方であれば郵送することになります。もちろん原本還付の書類も返送してもらえます。

また、通常発行される「登記完了証」が発行されません。

6. 登記完了後納品

登記完了後、「閉鎖事項証明書」と「請求書」を納品します。

普段の「滅失登記申請」と違うため、登記が無事に完了し安堵しました。

7. 領収証作成・送付

費用の入金確認後「領収証」を作成・送付します。

むすびにかえて 相続登記がされていない不動産の厄介さ

今回の案件を通じて改めて感じたのは、「相続登記がされていない不動産の厄介さ」です。

以前土地の境界確定依頼の案件で、依頼地の前面道路が私有地だったのですが、やはり相続登記がされていませんでした。

関係者を探したところこの時は相続人が見つかり、立会いや確認書類の署名・押印等のご協力をいただけたので良かったのですが、土地所有者の相続人が見つからない場合は境界の確定が未完となります。

同様に、土地の所有者が法人名義で登記されているものの、その法人が既に解散されていたり承継会社が無い場合もお手上げです。

数年前、NHKで「所有者不明土地」の特集を放送していました。

ある道路の一部分を拡幅できずに困っている。

理由はその一部分が「所有者が不明な土地」だから、というものでした。

個人の財産に無断で勝手に手を加えることができないのです。

そして、このような「所有者不明土地」が日本全国で九州の面積よりも広大なほどある、という内容に衝撃を受けました。

日本の国土の10%以上が所有者不明土地なのです。

乱暴に考えれば、自宅の周り10件のうち1件が所有者不明土地ということです。これはとんでもない事態です。

別の番組では、東日本大震災後の大規模な造成・高台化の整備事業の際も「所有者不明土地」がネックとなり事業がスムーズに進まない、ということを放送していました。

役所の担当者が土地の登記記録を調べ、相続人を全て確認して探す作業をしています。

時々起る余震のたびに「一刻も早く事業を進めて住民の命を守る土地を造らなければならない」と思うのに、戸籍や住民票を必死に調べているのです。

一つの土地の相続人が60人以上のケースもあり、外国に居住されている方も何人かいました。

担当者が作った関係図は応接用のテーブルと同じ大きさでした。

「なぜそんなことをするのですか?」という質問に、担当者は苦笑いしながら、「土地の共有者全員から了承を取り付ける必要があるからです。」と答えていました。

その表情と発言の様子から「この作業がなければ10倍は早く事業が進むのに」という無念さがテレビの画面を通しても伝わってきました。

ではなぜこういった「所有者が不明な土地」が存在するのでしょう。

原因は様々でしょうが、「相続登記がされていないこと」が要因として大きいように感じます。

「相続登記」時の費用や手間が嫌われるのかもしれませんが、「不動産の物理的現況とそれにかかわる権利について公示する」という登記制度の根幹を揺るがす由々しき事態といえます。

「所有者不明土地」は、売買に支障がある、不動産の有効活用に支障がある、等デメリットが多過ぎ、すでに国全体の損失となっています。

法改正により、懸念の「相続登記の義務化」が数年後に実施されるようですが、

「登記は法務局」だが「課税は市区町村(東京23区は都税事務所)」
「課税は固定資産税課」だが「住所移転や死亡届は住民課」

などの日本特有の縦割り行政による、行政間の情報伝達・共有不足についての問題点がどうなるかについては気になるところです。

個人的には、「登記とは」「義務化の必要性」について国民に周知・理解してもらうための教育及び啓蒙活動の推進を提案します。

法律で国民に義務化を求めるのならば、「それはなぜなのか」を理解してもらう必要があります。

小学生の社会の教科書に「登記とは・その必要性」なんて1ページがあれば、登記についての国民の感覚がもっと変わってくるのではないでしょうか。

いずれにしても、本来の意義・目的である「登記記録が整理され不動産の物理的現況と現在の所有者と住所・それにかかわる権利」が正しく公示されることになれば、登記にかかわる我々土地家屋調査士と司法書士の業務はスムーズに進みます。

相続登記義務化の施行後には想定外の課題も頻出することでしょう。

「所有者不明土地」を始め課題も山積していますが、皆で知恵を出し合ってより良い制度を押し進め、国民の生活と我々の業界が良い方向に向かえば何よりと思います。


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某有資格者による業務忘備録

2019年の12月からアガルート講座の2期生として中山先生の薫陶を受け、2020年の土地家屋調査士試験に合格しました。

現在、関東某所の調査士事務所に所属中で、主に建物の登記を担当しております。

諸般の事情により名を明かすことができませんが、これまで経験した建物の登記申請業務について備忘録として発信していく予定です。

参考にしていただける部分があれば幸いです。あくまで弊社の仕事の仕方ですので各事務所によって方法が異なる部分もあるかと思いますが、その辺りはご容赦頂きたく存じます。

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