【某土地家屋調査士による業務忘備録2】1日で「建物表題部所有者氏名更正登記」を完了させた話
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今私が最も注意しているのが、「漢字の間違い」です。
「そんな単純なことか」と思われるでしょうが、表題部に所有者として記録される申請人の法人名や個人名を間違えてしまうと大変なことになります。
今回は、「表題登記」の氏名を間違ってしまい、1日で「建物表題部所有者氏名更正登記」をした際の流れと、どんなに焦り心苦しかったかをお伝えします。
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木曜日の夜、不穏な電話が…
とある戸建住宅の表題登記が完了したのですが、完了後の木曜日の夜に提携する司法書士事務所の担当者から連絡がありました。
「先日の案件ですが、所有者の氏名が間違っていますね。」
「えっ?」
「来週の月曜日に融資実行なので明日中に更正してもらわなければなりませんが間に合うのですか?」
「すっ、すぐに確認します。」
慌てて建物の登記事項を見ると、担当者の言う通り所有者の氏名が間違っています。
「あれ、なんでだ?」
と、焦りながら表題登記申請時の受付書を確認し、全てを理解した次の瞬間…
私を待っていたのは現実逃避のための完全な思考停止と数秒間のフリーズでした。
凡ミス3コンボ
どういうことかというと、
1 表題登記の際に私が所有者の氏名の一文字を間違えた漢字で申請書を作成→
2 不運にも社内チェックでも見過ごされそのまま申請→
3 結果的には登記官も住民票との違いに気付かず、私が申請した誤った字のまま登記
されてしまったのです。
上記の通り翌週の月曜日が金融機関の融資実行日であり、その後司法書士による「所有権保存登記」「抵当権設定登記」が申請される予定です。
しかし更正登記が完了していなければ数千万円の融資が実行されず、その後の登記も申請できず契約不履行として関係各署に甚大な損害を与えることになり、賠償の矛先は当然弊社に向けられます。
数千万円という金額もさることながら、有難くも周囲から頂いている弊社への信用・信頼を瞬時に失うため、何がなんでも金曜日のうちに更正させなければなりません。
とにかくすぐに相談!朝一で法務局に電話
思考停止から我にかえりすぐに本職と相談。
まずは「職権で更正してもらえないか頼んでみる」、ダメなら「更正登記を申請して金曜日に必ず完了してもらうように頼む」という方針が決まりました。
金曜日の朝一で管轄法務局に電話し、此方のミスを詫び翌月曜に決済がある等、一連の事情を説明したうえで登記官に職権での更正を頼んだものの「そちらの申請した通りに登記しているので出来ません」と却下されてしまいました。
実のところ法務局側にも「住民票との差異に気付かず補正を指摘できなかった」落ち度はあるのですが、そもそも誤った字で申請しているのは此方ですから法務局を責めることはできません。
もちろん先方でもその点は理解していますし登記官も鬼ではないので、「こちらも見落としていますし、翌月曜日の権利の登記申請時に「更正登記を申請中のため正規の氏名での申請とする」旨の記載をしてくれれば処理しますよ」と助け舟も出してくれました。
しかし融資実行の条件が「表題登記の完了」であるため、更正登記を完了させる必要に迫られたのです。
「登記を申請してその日に完了してもらう」など今までに聞いたことがなく、
「そんなことできるのか?」
「でも完了しないと大変なことになる…」
頭の中でグルグル回るだけで完全にパニック状態です。
通常の依頼であれば、
- お客様からの登記依頼
- 必要資料を入手・調査
- 必要書類の作成・手配
- 登記申請
- 登記完了後納品
- 領収証の作成・送付
という流れだろうと思われますが、本件に関しては「今日中に更正登記を完了してもらわなければならない」事情があるため、必要な作業は「委任状の取得」「更正登記申請」「登記完了の確認」までです。
「登記を申請してその日に完了させる」ため委任状にサインしてもらう
時間との戦いなのですぐに作業にとりかかります。
本件「建物表題部所有者氏名更正登記」の添付書類は「更正証明書」と「代理権限証書」です。
幸いにもお客様への納品前だったので、「更正証明書」は先の表題登記時の住民票を再度使用。
委任状を作成して申請人に連絡し、昼休みに先方の勤務先で面会して署名・押印をもらいました。
申請人には当方のミスであること、誤って登記されている氏名の部分に下線が引かれた上で訂正がなされること等を説明し謝罪しました。
できたばかりの登記記録の氏名が間違っていたら誰でも良い気はしませんよね。
その点についてお叱りを受けることもあり得ましたが、申請人にしてみれば「登記事項に下線が引かれて訂正される」と言われても、おそらくは登記記録を見たことがないためイメージすらできなかったようです。
事務所でパニックに陥っていた私が、事務所にある資料の中から訂正された登記記録のサンプルを探せるような余裕は全くなく、そのような参考資料を持参できないままお客様に十分な説明ができたのか不安が残りましたが、幸いなことにその後更正された登記記録について申請人からクレームが入ることはありませんでした。
移動中、友人調査士の失敗エピソードに慰めてもらう
委任状を取得し駅に向かう道中で友人の調査士に「大失敗しちゃいました」と泣きを入れると、
「申請人はどんな反応でした?怒ってましたか?」
と聞かれました。
「怒ってはいませんでしたね。むしろ『こんな遠くまで大変ですね』くらいの感じでしたけど」
と答えると、
「申請人が怒っていないなら大丈夫ですよ。私は昔、依頼人から『仏滅には絶対登記申請するなよ』と言われていた案件を仏滅に申請してしまって、メチャメチャ怒られたことがありますから」
「そんなに怒られたんですか?」
「もうメッチャメチャ怒られましたよ」
と笑いながら慰められました。
委任状をもとにオンライン申請&法務局に提出、そして完了証を受け取りへ…
委任状を持ち帰ってからの申請では間に合わないため、事務所に委任状の取得を報告し、事務所で待機している社員にオンライン申請してもらいます。
作成してもらった調査報告書と必要書類を法務局近くの駅まで届けてもらい、それらを受け取って午後3時半に管轄の法務局に提出。
法務局で事情を話し今日中の完了をお願いして帰路に着くと、電車の中で法務局から「完了しました」との連絡があり、午後4時半に再び法務局に行き完了証を受け取りました。
登記官は「待っててもらっても良かったんだけどちょうど他の案件の処理があって時間が読めなくて。何度も悪かったね。」と言ってくれました。
始まりは「漢字の間違い」という凡ミス
周りの方の多くのご協力もあり、なんとか更正登記を完了させることができ安堵しましたが、全ては私の「漢字の間違い」という凡ミスが原因です。
注意すれば十分防げた、あってはならないミスです。
また、表題登記の「登記完了証」を注意して確認していればその時点で気付けたはずです。
こんなにギリギリまで追い込まれてからではなく、もっと早期に対応できたわけで、自分の仕事のずさんさを本当に恥ずかしく思いました。
事務所にしてみれば本件の全てが「本来不要な作業」であり、費やした時間・労力・それらに伴う費用は案件の利益から差し引かれることになります。
本職が呑み込んでくれたおかげで私が弁償・補填するようなことはありませんでしたが、関係各署に私がかけた迷惑は多大なものでした。
貴重な経験ではありましたが、「このようなミスを二度としてはいけない」と深く反省しました。
ここ数年を遡っても心臓がバクバクするほど緊張したのは、令和2年度の調査士試験とこの時くらいですが、「今日中に申請・完了」しないと「数千万円」という緊張感は試験には無いものでした。
ご覧の方に少しでも緊張感が伝われば幸いです。
以上の経験から「漢字の間違い」に注意するようになりました。なにしろ自分の注意で防げることですから。
もちろん「登記完了証」は目を皿のようにして確認しています。
むすびにかえて 「土地」と「建物」どちらも違う大変さがある
最後にひとつ気になったことを。
調査士業務の対象は大きく分けて「土地」と「建物」があり、中でも「土地」のメインが「境界確定業務」という事務所は割合としては多いのではないでしょうか。
私も以前担当していましたが、測量・変換計算・図面作成・隣地との立会・確認書類の取交し・必要な登記申請等、作業が多岐にわたる上にそれぞれに時間を要することから、「土地」担当者は「建物」担当者に対して、言葉には出さないものの「建物なんて簡単でしょ」「楽でいいよね」といったイメージを持っていることがあります。
ですが、前回の建物表題登記にも記したように「登記の完了日に制限がある場合」は、登記が完了するまで、この「数千万円の融資が実行されるかどうか」の緊張感にさらされます。
「自分ではどうにもできない金額」に対して責任を負うというのも仕事とはいえなかなか大変なことです。
実際「建物」担当者から「登記を期日までに完了させないといけないあの緊張感は「土地」の人にはわからないよ。」という意見も聞いたことがあります。
比較のしようはありませんが、土地の負担が「肉体的な疲労」ならば、建物の負担は「精神的な疲労」といえるかもしれません。
土地をメインに扱っている事務所や、土地・建物いずれも扱っているものの担当が決っていて業務が偏る事務所では、「お互いに何の負担も無く仕事しているわけではないんだ」と労いあえると良いなと思っています。
前:【某土地家屋調査士による業務忘備録1】「建物表題登記」普通建物・戸建住宅の一連の流れ
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現在、関東某
諸般の事情により名を明かすことができませんが、これまで経験した建物の登記申請業務について備忘録として発信していく予定です。
参考にしていただける部分があれば幸いです。あくまで弊社の仕事の仕方ですので各事務所によって方法が異なる部分もあるかと思いますが、その辺りはご容赦頂きたく存じます。