インターネット上には様々な情報があふれており、中には「弁理士はやめとけ」という内容のものも存在しています。

弁理士はやめとけと言われる理由は「弁理士の数が増えて競争が激しくなっている」「最低2~3年の下積みが必要」「高収入になれるとは限らない」の3つです。

弁理士試験の受験を考えておられる方にとって、このようなネガティブな情報が本当なのかどうかは非常に気になるところでしょう。

そこで今回のコラムでは現役の弁理士が、本当に弁理士はやめておいた方がよいのかどうか業界の実情を踏まえて解説します

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「弁理士はやめとけ」といわれる3つの理由

まずは弁理士はやめとけと言われる主な理由を3つあげて、それぞれについて詳しくみていきます。

弁理士はやめとけと言われている主な理由としては「弁理士の数が増えて競争が激しくなっている」「最低2~3年の下積みが必要」「高収入になれるとは限らない」の3つが考えられます。

理由1)弁理士登録者の数が増えて競争が激化しているから

引用 弁理士白書

弁理士白書によると、1953年には弁理士の登録者数が過去最低の926人でしたが、その後基本的に右肩上がりで増え続け、2013年には10171人になりました

また特許庁によると、2024年2月末の弁理士の登録者数(自然人)は11,767人と、2013年からもさらに増えている状況です。

このように弁理士の数が増えた結果、弁理士同士の競争が激しくなり、例えば、試験合格後に大手の弁理士事務所や大手企業の知財部などに入るためのハードルが徐々に高くなっていると考えられます

以上の傾向は、弁理士の登録者数自体が基本的に右肩上がりであることを考えれば、当面変わることがないと考えられます。

その意味で弁理士はやめとけという声が生じたと考えられます。

理由2)最低でも2〜3年の下積が必要とされるから

弁理士試験はあくまで弁理士としての「基礎的な知識」を問うものであり、実際の弁理士業務を上手くこなすには「業務経験」が重要

弁理士資格取得前から弁理士事務所や知財部にて関連業務を経験する場合もありますが、法律上、以下の①~③は弁理士の独占業務(②③は弁理士および弁護士)とされているため、弁理士(もしくは弁護士)資格取得後でないと行うことができません。

①特許、実用新案等に関する特許庁に対する申請代行業務

②特許、実用新案等に関する仲裁事件の手続についての代理及び特許、実用新案等に関する権利若しくは技術上の秘密の売買契約等の代理業務

③特許、実用新案等に関する訴訟において補佐人として陳述又は尋問をする、特許、実用新案等に係る審決又は決定の取消に関する訴訟について、訴訟代理人となる

以上の理由から、独占業務を行うことのできる弁理士として活躍するには一般に最低でも2~3年の下積み期間が必要となるため、「辛い試験勉強を突破したのにさらに下積みか」と、やはりやめておくべきだと考える人もいると考えられます。

理由3)弁理士が必ず高収入になるとは限らないから

上述の通り弁理士には以下の実情があります

  • 登録者数が増えている(理由1)
  • 最低でも2〜3年の下積が必要とされる(理由2)

理由1で記載したように需要に対して弁理士の供給(数)が多くなると、それが弁理士の平均年収を押し下げる原因となってしまうと考えられます。

また理由2から、下積期間にはどうしても年収が低くなってしまうため、高収入を得るまでに時間がかかり、生涯賃金という意味では必ずしも「高収入」ではなくなってしまうのではないかと考え、弁理士はやめておくべきと考える方もおられるのでしょう。

「弁理士は仕事がない」って本当?

「弁理士は仕事がない」と言われる理由は、弁理士は年々増加傾向にあり、競争が激化しているためです。
しかしながら、仕事がなくなるということはないでしょう。
というのも、弁理士は特許出願において、必ず必要な職種であり、公的手続きに欠かせない仕業だからです。

もちろん、仕事量や年収は個人差がありますが、弁理士の平均年収は997万円と高く、まだまだ需要のある職業であることがわかります。

弁理士の仕事はきつい?仕事の大変さとは

「弁理士の仕事がきつい」という意見も世の中にはあるようです。
弁理士の仕事の厳しい点について、いくつかのポイントに分けて解説します。

納期やノルマに対するプレッシャーがきつい

特許事務所では、ノルマを課される場合があります。
また、特許や商標の申請プロセスは締切りが厳格であり、クライアントの期待に応えるためにはタイムリーに対応する必要があります。
これにより、プレッシャーの中で作業することが少なくありません。
時には、多くの業務が集中することもあり、残業が発生することもあります。

高い専門知識を求められる

弁理士はクライアントに対して正確で適切な法的アドバイスを提供することが期待されます。
そして、質の高い法的な文書作成や対応が重視されます。

そのため、弁理士になった後も、知的財産に関する知識を常にアップデートし、知見を深める必要があるという点が人によっては「大変」と感じるポイントになるでしょう。

それでも、弁理士をオススメできる3つの理由

前章では、弁理士をやめておくべきという意見を紹介しましたが、その一方で弁理士を目指すべきだという意見を持つ人もいます

そこで、以下では弁理士をおすすめできる理由をいくつか挙げてみたいと思います。

理由1)平均年収は一般のサラリーマンより高いから

前章では様々な理由から弁理士=高収入とは限らないとの意見を紹介しました。

弁理士に限らず、一般論としてどのような職業であっても全員が高収入であることなどないと言えます。

しかしながら、現実問題として職業や職種によって稼げるか稼げないかという「傾向」はやはり存在しています。

そしてその傾向をみる一つの指標として「平均年収」を挙げることができます。

令和4年分の国税庁『民間給与実態調査』によるとサラリーマンの平均年収は458万円。

これに対して厚生労働省の令和5年度賃金構造基本統計調査によると、弁理士の平均年収は997万円となっています。

このように平均年収で見た場合、一般のサラリーマンと弁理士とでは倍以上の差があることがわかります。

もちろん前述した通りすべての弁理士が高収入を保証されているわけではありませんが、弁理士の方が一般のサラリーマンよりも高収入となる「確率」は高いと言えるでしょう。

また前章で「弁理士=高収入とはかぎらない」ことの原因として考えられている弁理士の登録者数の増加や下積期間の存在についても、以下の理由から実際にはそれほど弁理士の年収にマイナス要因とはならないと考えられます。

まず登録者数の増加についてですが、弁理士登録者は確かに増えています。

しかし、年代別分布に注目してみると、実は弁理士の平均年齢は53.6歳と非常に高く、50歳以上が登録者数の58.8%と登録者数の半数以上を占め、60歳以上が登録者数の27.1%と4分の1以上を占めています。

そのため、働き盛りの弁理士の数は実は意外と少なく、多くの事務所は人手不足に悩んでいるのが実情なのです(日本弁理士会会員分布状況2024年2月末時点より)。

また、2~3年の下積期間についても、この期間さえ我慢してスキルを身に付けてしまえば、その後は一般のサラリーマンの倍以上の平均年収を十分に狙える職業です。

このことから、2~3年の我慢にあまりある十分なリターンを得ることができる可能性は高いと言えるでしょう。

※関連コラム:弁理士の年収・給料はどれくらい?現実を現役弁理士が解説!

理由2)自由な働き方を目指せる

弁理士資格を取得することによる一番のメリットは働き方の自由度を高めることができる点かもしれません。

弁理士の仕事はPCが一台あれば基本的にどこでもできる仕事です。

最近ではお客様との打ち合わせもオンラインで行われることが多くなりましたので、ある程度のスキルが身について一人で業務を行えるようになればフルリモート化も十分に可能です。

また、ある程度業務経験を積み弁理士としてのスキルを身に着けてしまえば、そのような弁理士は実は貴重な存在です。

事務所などに勤務している弁理士であっても、業務量を減らして無理なく働きたい、または業務量を増やしてできるだけ収入を上げたいなど働き方に関する要望を聞いてもらいやすく、自分に合った働き方を追及することが可能です。

さらに、弁理士として経験を積めば、独立開業して完全に自分のペースで仕事をすることも可能です。

※関連コラム:弁理士ってすごい!魅力とやりがい、楽しい点は?

理由3)最先端の技術に触れることができる

弁理士の主要業務としてはお客様が考えた新しいアイデアを権利化する業務があります

この業務においては、まだ世の中に公表されていない、新しい技術やデザインに常に触れることができます。

常に新たな情報に触れることができるので、知的好奇心が旺盛な方にとっては理想的な職業であると言えるでしょう

この点については、ぜひ以下の関連コラムもご覧ください。

関連コラム:弁理士に求められる能力とは?向いている人と向いていない人

稼げる弁理士となるには

弁理士の平均年収は一般のサラリーマンより高いとはいえ、ここまでに述べてきたように弁理士となれば必ず高収入を得られるわけではありません

ではどうすれば高収入を得られる弁理士になれるのでしょうか

この章ではその方法を解説していきたいと思います。

【大前提】弁理士の収入は働き方によって異なる

弁理士の働き方はいろいろありますが、主なものとしては以下の3つを挙げることができます。

弁理士の年収は働き方によって大きく変わります。働き方の選択によって年収をより高くすることも可能であるといえます。

働き方1)特許事務所勤務

弁理士の最も一般的な働き方であると言えます。

特許事務所勤務の弁理士の場合、売り上げに応じて毎月のお給料が変動するという実力主義の給料体系となっている場合が多いです。

実力があれば1000万円以上の年収を目指すことも可能ではありますが、初めのうちはお給料が安い場合が多いかもしれません。

一般的な年収は600万~800万円程度であると言われています。

働き方2)企業内弁理士

企業の知的財産部に所属して働いている弁理士も多くいます。

企業内弁理士は企業で働いているサラリーマンの方と同じ給料体系であるため、事務所勤務の弁理士に比べて安定した収入が得られるという特徴があるのです。

知的財産部を保有する企業はある程度規模の大きな企業であることが多いので、年収は大手企業のサラリーマンの年収である800万円~1000万円程度であると考えられます。

働き方3)特許事務所経営

弁理士として高収入を目指すのであれば独立開業がおすすめです。弁理士は一人で事務所を切り盛りすることも十分に可能であり、比較的独立しやすい職業であると言えます。

この点については以下の関連コラムをぜひご覧ください。

関連コラム:弁理士の独立に必要な準備と開業費用

弁理士は前述したように一人事務所でも十分に高年収を狙うことができる職業です。

優秀なプレーヤーをうまくマネジメントする管理職や経営者としてのスキルを身につけることによって、より一層稼ぐことができるようになるでしょう。

弁理士に限らずどの職業職種でも一般に、一人当たりのリソースは限られているためにプレーヤーとして稼げる額には限界があります。

一方で、チームをマネジメントすることにより大きな利益を創出することが可能となる場合もあります。

このマネジメント力は前述した特許事務所や企業で働く場合にも重要な力となるため、独立を目指す方だけでなく、全ての弁理士が是非とも身につけておきたいスキルであると言えるでしょう。

ダブルライセンスを目指す

弁理士として高年収を目指すには、まずは弁理士としてのスキルを磨くことが重要です。

しかし、弁理士としての仕事を極めたうえで、さらに他の資格を保有しお客様に付加価値を提供できれば、より高年収を目指すことも可能でしょう。

ダブルライセンスの例としては以下のようなものを挙げることができます。

例1)弁護士

弁理士と弁護士とは担当できる業務範囲が異なるため、お客様から知的財産に関する相談を受けたとしても、どちらか一方の資格だけでは対応できない場合があります。

このような場合、通常は弁理士と弁護士が協力して業務を行います。

弁理士と弁護士の資格を併せて保有していれば別の弁理士または弁護士をもう一人雇わなくてもよいため、手間やコストの観点からお客様にとって非常に魅力的な存在となることができるでしょう。

例2)税理士、公認会計士など財務に関する資格

企業にとって知的財産戦略は経営戦略と切り離して考えることができないものです。

そこで企業の財務に関する専門知識を有する税理士や公認会計士等の資格をさらに保有し、企業の経営状況に基づいた知的財産戦略を提案するなどの付加価値を提供することができれば、他の弁理士との差別化を図ってより高収入を目指すことができると考えられます。

例3)中小企業診断士

中小企業診断士は中小企業に対して経営のアドバイス等を提供しています。

弁理士と中小企業診断士とのダブルライセンスを取得することによって、これから規模を拡大していこうとする中小企業の経営に知的財産をうまく活用して適格にサポートすることができるでしょう。

※関連コラム:弁理士とのダブルライセンスで市場価値アップ!おすすめ資格を紹介!

国際弁理士を目指す

国際弁理士という資格は存在しておらず、複数の国で弁理士資格を取得している弁理士のことを通称して国際弁理士と呼ぶことがあります。

日本の特許庁に対する手続きの代理は日本の弁理士資格を保有しているものだけが行うことができるように、各国の特許庁に対する手続きを代理するためには原則現地での弁理士資格が必要です。

そこで、外国の特許庁に対する手続きを希望する場合には、国内の弁理士やお客様自身が各国の弁理士に連絡をとり代理業務を依頼する必要があります。

国内の弁理士を介して現地の弁理士に別途代理を依頼するとなると、両方の弁理士の費用が重ねて請求されることとなるために外国特許庁への手続きは一般的に非常に高額になりがちです。

複数の国において代理業務を行う資格を保有している国際弁理士であれば、毎回現地の代理人に手続きをお願いする手間や費用を省くことができるので、お客様への大きなアピールポイントとなることでしょう。

※関連コラム:国際弁理士とは?年収は?なるには?日米欧韓比較!

ブラック特許事務所を回避するには?転職時に気を付けるポイント

面接時に必要な情報を必ず確認する

面接時に、「海外研修や教育制度の利用状況」「月の残業時間」「育休・産休や有給休暇の取得率」「売り上げノルマの有無」といった勤務条件を必ず確認しておきましょう。

カルチャーフィット

候補先と自分の相性を知ることも、入社後のミスマッチを防ぐ重要なポイントです。企業の経営理念やビジョンを知ることで、カルチャーフィットしているかどうかを把握できます。

複数の特許事務所を比較検討してから、自分のやりたいことを実現できる会社かどうか判断しましょう。

クライアントや出願件数の変化を調べる

無料の特許情報プラットフォーム「J-Platpatは、特許事務所の出願件数やどのような会社の代理人をしているのかを調べられます。

候補先の出願件数の推移を確認しておくことで、「業績が安定しているか」「自分が成長できる環境か」を決める判断材料になるでしょう。

まとめ

以上「弁理士はやめとけ」と言われる理由と、それでも弁理士には魅力が多い旨解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

アガルートの弁理士講座は通信講座でいつでもどこでも自分の予定に併せて勉強を進められるために、忙しい方でも受講しやすい講座となっています。

また、内容についても合格に必要な知識を効率的に習得できるように工夫されていますので、短期間での合格を目指す方におすすめの講座内容となっております。

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