今回は、山口特許事務所の山口 真二郎様にインタビューを行いました。

弁理士業務の内容やスケジュール、独立開業までの経緯など詳しくご回答いただいています。

これから弁理士を目指す方は、ぜひ参考になさってください。

なぜ資格を取得しようと思ったのですか?

 私は新卒後、都内のゼネコンに就職して11年間勤務し、平成24年に現会長が所長を務める特許事務所に転職しました。

 前職では法務、経理、総務、経営企画等の部門を経験し、それなりのキャリアを積んでいたつもりでした。

しかし、転職後の特許事務所では過去に積んだ事務系のキャリアは一切通用せず、大変に悔しい思いをしました。

 転職を決めた時点から弁理士取得は必須と考えていましたが、この時期の悔しい思いが、一年でも早く弁理士になりたいという試験勉強への強いモチベーションになっていたと思います。

主にどのような業務をされているのですか?

 知的財産権に関する各種の相談、特許出願の原稿作成、意匠登録出願の図面の検討、商標登録出願の登録可能性調査、各種出願の拒絶理由に対する応答案の作成、維持年金納付の管理、外国から日本への各種出願の手続代理、日本から外国への各種出願の手続代理、クライアントの社内セミナー講師、クライアントの発明会議への出席など・・・

1日の簡単なスケジュールを教えて下さい

6時50分:事務所到着 

 事務所のドアを開けると真っ暗な執務スペースで、国際部の部長がデスクランプを頼りに黙々と業務を行なっています。どれだけ早起きしてもこの部長には勝てません(毎朝2着)。

 洗面所で顔を洗って気分を変え、熱い珈琲を淹れて業務開始まで勉強します。

 勉強の内容は、資格試験が近いときは試験勉強、弁理士会の研究報告書、弁理士会のeラーニング、現在担当している発明の技術分野に係る技術文献等です。

8時:業務開始 

 8時30分まで業界の情報をインターネットでチェックし、クライアントに関連する情報があれば些細なことでも担当者様へメールで共有します。たまには?感謝してもらえることも。。。

 午前中には短時間で仕上げられる単発の業務を行うことが多いです。拒絶理由への反論案や、外国から日本への特許出願等に係る原稿チェックは、だいたい午前中に処理しています。

 10時ぐらいから、ボチボチクライアントからのメールや電話が入ってきます。原稿の修正依頼はすぐに直して返送、様々な相談がありますが、ワンデーレスポンス(その日のうちに返信)でかつできるだけ短時間で返信するように心がけています。

 その他、クライアントのご来所対応、クライアント訪問、ウェブ会議など。

12時半~13時半:昼休み

 飲食店が混雑しない時間にゆっくり昼食を取れるように、との会長の心づかいにより、当所は昼休みが通常より30分ずれています。

 私は基本的に昼食をとらないので、試験が近ければ試験勉強、頭が疲れているときは気分転換にネットの記事を見ています。

13時半:午後の業務開始

 毎週月曜日は午後一でコンサルタント部のミーティングです。手持ちの業務の進捗具合の報告と、クライアントや業界の情報の共有を行ないます。特許庁への反論が難しい案件では、経験豊かなスタッフの意見を聞くことで思いがけないアイデアを思いつくことも。

 14時から出願書類や手続書類のチェックです。作成者の書類を他のスタッフがダブルチェックすることで、あってはならない手続き上のミスの芽を刈り取ります。

 その後、夕方まで特許出願原稿を作成します。出願原稿の納期は最大3週間です。発明者様から頂いた資料を基に毎日コツコツと原稿を仕上げてゆきます。とはいえ、クライアントの都合で緊急となる場合も少なくなく、2、3日で原稿を仕上げることも・・。

16時:退社

 当所ではコロナ以降、時差出勤制を採用しています。出勤時間に合わせて16時、17時、18時と段階的に退社します。

 クライアントに迷惑をかけない範囲で、できるだけ残業はせず定時で業務を終わらせるように心がけています。

仕事の魅力ややりがいを感じる時を教えて下さい

 特許や商標の出願で、困難な反論を経て無事特許査定や登録査定を勝ち取った時でしょうか。このような案件は当然クライアントもとても喜んでくださいますが、実は代理した自分が一番嬉しかったりします。

印象に残っている仕事・案件のエピソードがあれば教えて下さい

 世界的に有名なあるパンの留め具の「立体商標」の出願を担当しました。

 製品の形状その物の立体商標は審査のハードルが極めて高く、その形状が日本国内で著名であることを証明するため、多くの証拠資料を揃えて提出する必要がありました。

 書類の収集や吟味には多大な労力を要しましたが、特許庁との数度のやりとりを経て無事に立体商標を取得することができました。

 スーパーやコンビニでパンの袋を手にするたびに、当時の感慨が沸き上がってきます。

なぜ独立開業をしようと考えたのですか?

 私の場合、独立というより先代からの事業承継ですが、個人事業なので法律上は個人事業の新規開業となります。 

 高齢になった先代所長(現会長)から、屋号の継承と職員の受け皿として事業承継を打診されました。

 リスクは大きかったですが、もともと経営には興味がありましたので、あまり悩むことなく決断しました。

開業後、最も苦労されたのはどのような部分ですか?

 資金繰りの改善にはかなり頭を悩ませました。

 当所に限らず、特許事務所はクライアントの特許印紙代を立て替えて後に請求するケースが多いので、業界の特性としてキャッシュフローが手薄になりがちなようです。

 事業承継当初はかなりタイトな資金繰りでしたが、資金繰り表の精度を高めると共に、定期積金を活用することで不要な借り入れを減らし、弁理士協同組合の制度を利用することで特許印紙代の立替を減らすことができました。

 これによって、資金繰りが大幅に改善し、売り上げを順調に経営に廻してゆくことができるようになりました。

 今まで全く役に立たなかった前職の経理系のキャリアが、ここにきてようやく日の目を見た瞬間でした(涙)。

これから資格取得を目指している方へメッセージをお願いします

 弁理士資格の取得のためには、時間や趣味など多くの犠牲を強いられます。長期のスケジュールとなるためモチベーションの維持にも苦労することでしょう。

 これは私の信条に過ぎませんが、どんな資格試験でも、人生をかけて真剣に取り組む覚悟さえ持っていれば、結果は必ずついてくるものだと思っています。

 試験に挑戦するあなたの真摯な想いを心から尊敬し応援しています。

この記事の著者 山口特許事務所 山口 真二郎

弁理士/一級知的財産管理技能士(特許/ブランド/コンテンツ)平成13年早稲田大学社会学部卒。海洋系ゼネコンに勤務の後、平成24年に山口特許事務所へ入所。行政書士登録を経て平成27年弁理士登録。平成29年特定侵害訴訟代理付記。令和5年7月より所長。創業45年、経験豊富なベテランの弁理士やスタッフ達と共に、特許/意匠/商標の出願代理から、中間処理対応、セミナー講師、外国出願まで知財に係る業務全般に対応。弁理士、一級知的財産管理技能士の他、60以上の資格・検定を保有する。

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