口述試験は弁理士試験に最終合格するための最後の関門です。

口述試験は短答式試験や論文式試験とは全く異なる試験形式。

そのため、どのようにして勉強をしたらよいのか、またどの程度準備をすれば合格できるのかということが分かりにくく、試験対策に不安を感じている方も多いと思います。

そこで、今回は口述試験についてその内容から対策までを徹底解説します

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弁理士試験の口述式試験について

この章では、弁理士試験の口述式試験がどのようなものかを解説していきます。

弁理士試験の最後の関門

弁理士試験は、短答式試験、論文式試験、口述試験という3種類の試験からなります。

短答式試験に合格し、さらに論文試験に合格すると最終試験である口述試験に進むことが可能に。

口述試験に合格して、ようやく弁理士試験に合格したこととなり、実務修習に進むことができます

そして実務修習を修了すると、いよいよ弁理士登録を経て晴れて弁理士になることができるのです。

口述試験の概要

口述試験は、その名の通り試験官が出す問題に口頭で解答する面接形式の試験

口述試験の試験科目は3科目あり、各科目10分ずつの試験となっています

法文集が貸与され、試験官に許可を得て試験中に条文を確認することが可能。

  • 特許・実用新案に関する法令
  • 意匠に関する法令
  • 商標に関する法令

口述式試験の合格率と合格点・合格基準について

ここからは口述試験の合格率や合格基準を見ていきましょう。

口述試験の合格率:例年90~99%

平成29年から令和4年までの口述試験の合格率は90%~99%となっています。

この口述試験は、すでに短答式試験と論文式試験を突破した実力はお墨付きである受験生のみが受験できる試験であるにもかかわらず、少数ながら毎年不合格者が出てしまうという試験。

しかし、この試験さえ突破すれば、以下の表に示すように短答式試験、論文式試験及び口述試験を含む全体での合格率が6%~10%と難関試験である弁理士試験の合格者となります

年度口述合格率弁理士試験合格率
令和4年96.4%6.1%
令和3年90.2%6.1%
令和2年98.6%9.7%
令和元年95.6%8.1%
平成30年94.0%7.2%
平成29年98.4%6.5%

口述試験の合格基準

口述試験の合格基準は、採点基準をA、B、Cのゾーン方式とし、合格基準はC評価が2つ以上ないこととなっています。

A:答えが良くできている場合

B:答えが普通にできている場合

C:答えが不十分である場合

口述試験の対策のポイントを現役弁理士が解説

この章では、いよいよ口述試験の勉強方法について解説したいと思います。

口述試験は、短答式試験や論文式試験と異なり、勉強方法はいたってシンプルなのですが、何をどれくらいやれば良いのかについては、皆さん悩まれるのではないでしょうか。

ここでは筆者の実体験も交えながら、口述試験を突破するための勉強方法をご紹介していきたいと思います

口述試験の過去問集を使って勉強する

過去10年分程度の過去問を繰り返し勉強して、最終的には問題に対してすらすらと自分の言葉で回答が言えるようになるまで習熟しましょう。

始めのうちは問題を読んでからすぐに模範解答を読む作業を毎日少しずつ続けて、慣れてきたら少しずつ模範解答の内容を理解して覚えます。

口述試験の過去問集を使った勉強は、論文式試験に合格してからではなく、できるだけ早くに着手しましょう

短答式試験の勉強を始めるのと同時期に始めるくらいが良いと思います。

筆者は短答式試験の勉強を始めてから1年1か月余りの後、口述試験を受験するまでの間に10年分の過去問を毎日少しずつ勉強して8周~9周は勉強しました。

それでも試験前日は心配で夜なかなか眠れなかったのを覚えています。

弁理士同友会等が開催している口述練習会に参加する

インターネット等で調べたり、知り合いの弁理士さんに聞いたりして、是非口述練習会の情報を調べて参加してみましょう。

いろいろな団体が口述練習会を開催しているようですので、ご自分の都合に併せて参加しやすい口述練習会を探してみましょう

筆者は西日本弁理士クラブ主催の口述練習会に参加しました。

口述試験の練習をした後に、各科目について試験官役の弁理士さんから温かい励ましの言葉とともに、試験までにおさらいしておいた方が良いポイントなどを指摘して貰えてとても良かったです。

また、当日の服装等のマナーについてもアドバイスをして貰えて不安を解消することができました。

料金も模試に比べると安かったと記憶しています。

予備校などの模擬試験(模試)を受ける

予備校が開催している口述試験を受験してみるのもお勧めです。

本番の口述試験に近い緊張感を味わいながら、どの程度回答できるかという実力を試すために模試を活用してみるのも良いと思います。

口述再現問題集を使う

過去問題集をやり切ってしまって、さらに勉強をしたいという方は、口述再現問題集という問題集を使ってみるという選択肢もあります。

平成元年~平成15年等のかなり古い過去問を収録しているようなので、最新の口述過去問題集だけでは物足りない方には良いかもしれません。

ただし、あくまで過去10年分の過去問を完璧にした後にやるようにして下さい。

口述試験に落ちる人の特徴

ほとんどの人が合格できる口述試験ですが、毎年不合格者が出ていることも事実です。

では、どのような人が口述試験に落ちる傾向にあるのでしょうか。

筆者は現在弁理士として活動しており、周りには口述試験を合格してきた弁理士が複数人います。

そうした周りの話などを総合した、筆者の主観としての口述試験に落ちる人の特徴とその解決策を以下にまとめてみました

黙ってしまう

口述試験で一番やってはいけないのが、黙ってしまうことです。

ものすごく緊張する試験なのでどうしても言葉が出にくくなってしまうと思います。

しかし、何かしら発言をしないと試験が進まず、回答できないまま試験が終わってしまう可能性が。

口述試験の試験時間はあっという間に過ぎてしまいます。

「間違っているかも」と思い悩まず、とにかく何か言ってみましょう。きっと試験官の方が助け舟を出してくれるはずです。

話をしっかり聞けない

前述したように、口述試験では答えが間違っていても試験官から助け舟を出してもらえる可能性が高いです。

しかし、試験官の言葉をしっかりと聞けないと、何を答えれば良いのか分からず迷子になったまま時間切れになってしまう可能性があります。

まずは落ち着いて、試験官からの質問や、自分の回答に対する試験官の発言をよく聞きましょう

多くの場合、試験官の誘導に逆らわずに答えて行けば自然と正解にたどり着けるはずです。

自信過剰になってしまう

口述試験までたどりつく受験生であれば誰しも、短答式試験や論文式試験を乗り切ってきたという自負が少なからずあると思います

しかし、あまりに自信過剰になってしまっていたり自負が強すぎたりすると、試験官の誘導を無視して余計な回答をしてしまったり、すぐに条文集を確認すれば解決する問題に余計な時間をかけてしまったりすることがあるようです。

謙虚な気持ちで試験官の誘導に素直に従い、記憶に不安があれば躊躇せずに条文集を確認するようにしましょう。

悪い印象を与えてしまう

これまで述べてきたように、口述試験は試験官との間のコミュニケーションがきっちりととれるかどうかが合否を分けるポイントとなります。

試験官も人間ですので、好感が持てない受験生には助け舟を出しにくいということもあるかもしれません。

助け舟を出してくれるかどうかは、問題の内容や試験官にもよりますが、良い印象を持ってもらうに越したことはありません。

最低限の服装や言動のマナーは守るようにして、できるだけ好感を持ってもらえるように努めましょう。

口述式試験を再現してみました!

ここでは筆者の口述試験での体験を共有してみたいと思います。あくまで筆者が記憶している範囲の情報・体験ですので、その点はご注意ください。

まず会場は東京の芝公園にある「ザ・プリンスパークタワー東京」でした。

筆者が受験した年の口述試験の試験日は2日間あり、各日午前午後のグループに分かれていました。

おそらく同じ時間帯に受験した人数は60~70人だったと思います。

受付が済むとホテルの部屋に15人程度ずつ振り分けられ、そこで自分の順番がくるまでじっと座って待ちます。

みんな緊張した様子で静かに最後の勉強をしていて、室内にはとても重苦しい雰囲気が漂っていました。

いよいよ順番が来ると係りの方の誘導で部屋から出て、試験会場の前に移動し、そこで前の受験生の試験が終わるのをしばらく待たされました。

タイムキーパーの方が試験時間をベルで試験官に伝えていて、一鈴(1回)、二鈴(2回)と続き、三鈴(3回)が鳴らされると10分が経過したという合図のようでした。

前の方が出てきてから準備が整うと部屋に入るように促されて入室します。

試験室はホテルの一室という感じで、中に試験官が2名座っておられました。

入り口で「失礼します。〇〇です。よろしくお願いします。」と名前を言って挨拶をした後、試験官の前の椅子に座るように指示されました。

椅子に座るとすぐに試験が始まり、試験官からの質問に答える作業が続きます。

特許・実用新案と意匠の試験官の方は見るからに優しそうな雰囲気の方々でした。商標の試験官の方々は少し厳しそうな雰囲気だったかもしれません。

試験時間が終わると退室するように指示され、次の科目の部屋に移動するという感じで3科目の試験が続きました。

試験中の試験官との会話は、例えば以下のような感じでした

試験中に法文集を見ることが許されていますが、回答をするときには法文集を閉じてから回答しなければいけないというルールがあり、緊張で何も覚えられずに何度も法文集を確認していた記憶があります。

以下の商標の試験は、三鈴(10分)までに正解にたどり着けずC評価になってしまいましたが、他の2科目が比較的簡単だったので無事に合格できたという冷や汗ものの試験でした。

(試験から数年経っているので出題内容が違っているかもしれませんが、緊張感漂う雰囲気が少しでも伝わればと思います。)

試験官:それでは、商標に関する法令の試験を始めます。

受験生:よろしくお願いします。

試験官:まずは団体商標の制度についてご説明頂けますか。

受験生:はい。団体商標とは・・・という制度です。

試験官:そうですね。それでは1枚目のパネルをご覧下さい。

受験生:はい。

試験官:パネルに記載されたような内容で商標を出願したいと考えています。

    どのような出願をすれば良いでしょうか?

受験生:地域団体商標として出願することを検討します。

試験官:そうですね。それでは、地域団体商標とはどのような制度でしょうか。

受験生:はい。地域団体商標とは、え~と・・・。申し訳ありません。条文を確認させていただいてもよろしいでしょうか。

試験官:どうぞ。

受験生:地域団体商標とは・・・です。

試験官:はい、ありがとうございます。ではもう1枚のパネルをみて下さい。

    実はこのような事情があり、このままではせっかく出願した本願商標を登録できません。この場合には、どのような手続きをすれば良いでしょうか。

受験生:え~と。(全然わからない。どうしよう。)

試験官:何かありませんか?お考えになったものを何か言ってみて下さい。

受験生:(本当に分からない)もしかしたら、出願の変更ですか?

試験官:具体的にどのようなことですか?

受験生:え~と、地域団体商標として出願しているものを団体出願に変更するとか。

試験官:違います。他に何かありませんか?

受験生:すみません。分からないので、条文を確認してもよいでしょうか。

試験官:どうぞ。

受験生:もしかしたら、・・・でしょうか。

試験官:違いますね。

受験生:それでは、・・・は?

試験官:違います。

受験生:それでは、え~と・・・。(ここで三鈴)

試験官:お時間が来てしまったようですので終わります。お疲れさまでした。

【試験日程など】口述式試験が終わったら…

口述試験は例年10月中旬~下旬頃に行われ、11月の上旬頃に合否が発表されます。

合格発表は特許法のホームページで行われます。

さらに口述試験は弁理士試験の最終試験であり、口述試験合格者は弁理士試験の最終合格者となることから、口述試験の合格者については官報においてもその氏名が公表されます。

弁理士となるには、試験に合格するだけでなく、実務修習を修了した上で、日本弁理士会に弁理士登録をする必要があります

そこで、口述試験の合格者には、合格通知だけでなく、弁理士試験の合格証書とともに実務修習の申込書が郵送で届けられます。

実務修習は年明け早々に始まり、事前課題の提出やオンラインでの研修受講が年末から始まります。

実務修習は一年に一回しか開催されないので、弁理士登録を急いでいる方は早めに準備をして忘れずに申し込みをするようにしましょう。

ここまで、口述試験について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

ぜひこの記事を参考に弁理士試験を突破して、弁理士として活躍していただきたいと思います。

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この記事の執筆者

Naoko


京都大学大学院農学研究科修了。


研究者を目指し大学に残ったものの、結婚出産を経てより子育てのしやすい環境を求めて知財業界へ。


特許事務所で特許事務(国内・海外)を3年程経験した後、第3子の出産を機にパラリーガルに転身。弁理士試験に挑戦し、一発合格。


現在、特許事務所で弁理士として活躍。

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